« ぼく、フォリエモンです。 | トップページ | イラン映画『マリアの息子(Pesar'e Maryam)』 »

2006/02/02

『単騎、千里を走る。』 中国雲南省(その2)

『単騎、千里を走る。』を観てきました。映画のストーリーは、公式サイト他でご覧ください。

 公式サイト:http://www.tanki-senri.com/

多少、設定に無理を感じたところもありますが(主人公「高田(高倉健)」が雲南へ行く動機に唐突さを感じたこと、中国の刑務所に外国人が入る許可が簡単に下りたことなど)、「映画だから」と割り切れば、全体的なテーマや情感などは、良かったと思います。雲南らしい「匂い」も感じさせました。素人の人たちの演技と思わせない自然な感じは、さすが、チャン・イーモウ監督です。

そして「高田」と少年ヤンヤンとのふれあい。言葉ができなくてコミュニケーションがうまくいかないことは外国を旅するとよくあることですが、もしかしたら、この場合、言葉が通じないからこそ、「高田」と少年ヤンヤンとは、心が通じ合ったのかな?とも思います。どんなに通信手段が発達しても、直接出会って、目と目を見て、体温体臭を感じることの意味は大きいでしょう。言葉(理屈)ではなく、体(感覚)で分かることの大切さみたいなことを、監督は表現したかったのではないか、とも思うのです。言葉が通じなくても、心は通い合うということは、俺も、外国を旅してたまに実感します。

そう考えると、「高田」が、仮面劇の撮影はしなくても良くなったのに、あえてまた刑務所へいって少年の父親に会う意味もわかります。写真だけなら、あとでプリントでもして渡してもらえばすむのに、「高田」は、直接彼に会いたかったのでしょう。いや、会う必要があったのです。直接会って、ヤンヤンを思う父親の気持ちを感じることで、「高田」自身もそこに自分を投影し、自分の息子との距離を縮めることができると考えたのかもしれません。ただ悲しいことに、そのとき、すでに「高田」の息子は亡くなっていたのですが。

健さん(高倉健)はかっこ良かった。いや、ちょっと良すぎたかな。チャン・イーモウ監督の思い入れなのでしょう。全体的には「遠くから来た日本人を助ける親切な中国人たち」という仕上がりにもなっているので、中国人にも評判はいいでしょう。

上に掲載の写真(スライドショー)は、今から16年ほど前に、貴州省鎮寧郊外の村で俺が撮影した「ディーシー」です。

映画の中で実際に『単騎、千里を走る』を踊っていた人たちは、貴州省西部、安順市の人たちだったようです。(エンドロールにも、そう出ていました) 雲南にも仮面劇がありますが、貴州の方が昔のまま良く保存されていることで有名でした。だから俺もそれを見たくて、春節の時期、安順付近に滞在していたことがあります。

これを「地戲(ディーシー)」といいます。安順市、鎮寧県近郊の村々に伝わる仮面劇で、春節期間中それを見ることができました。

「地戲」は、明朝時代にこの地方に移り住んだ漢族の兵隊たちが娯楽としてやっていたものを、地元の農民が真似てやり始めたのが発端だと言われています。そういうわけで、「地戲」の演目は漢族の物語からとったものが多いのです。『千里走単騎』もそのひとつ。ところで、「地戲」と呼ぶのは、特別のステージを使わないで、地面の上でやるからです。写真を見てもらえれば、わかりますよね。演者と観客が同じ地面にいます。観客は周りを囲んで見物するのです。

俺がいった村では、春節の五日目から十五日目まで毎日行われるそうで、その期間、「地戲」を見物に方々から人が集まってきていました。「地戲」は午後3時ころから始まって約3時間続きました。これと平行して、隣のグラウンドではバスケットボールの村対抗戦が行われていたり、ビデオ館ではスピーカーで放映中のビデオの音を流し若い人たちを呼び込んでいて、たいてい「地戲」を熱心に見物しているのは老人たちでした。

060202_3
ヤンヤンがいた村は、映画では「石頭村」と言ったと思いますが、これは、麗江郊外の「石鼓鎮」と「土林」とその他を組み合わせたものでした。「石鼓鎮」の入口には、実際門付きの吊橋が架かっています。「石鼓鎮」はまた「長江第一湾」といって、金沙江(長江の上流)が、大きく方向を変えるところとしても有名です。

そして、土林の夕暮れは美しかったですね。土林は元謀県にあります。堆積した土が長年の雨によって浸食されて、まるで林のようになっているので、土林と呼んでいます。元謀県では、170万年前といわれる「元謀猿人」の化石も発見されています。

この土林の中を、健さんも、小型トラクターの荷台に乗っていましたね。ヤンヤンを連れて、ヤンヤンの父親のいる刑務所へ向かうシーンです。このトラクターは「トラジー」といって、雲南の田舎に行くとお世話になる乗り物です。バスが走っていない村に行くときなどに使います。どんな辺鄙な村にも、この「トラジー」は1台くらいあるので、これをチャーターすることもできます。10年くらい前ですが、1kmあたり1~2元くらいだったと思います。

060202_02ただ、これに乗るには、あるコツがいります。人や物が落ちないように、荷台の枠に鉄棒が張られていていますが、これを揺れるからといって力を入れて握っていると駄目なんです。緩く握ることが肝心です。それと、膝ですね。ぴんと伸ばすのではなくて、少し曲げて、中腰状態になるのが楽です。道が悪いので、あまり手や膝を緊張させておくと、間接をすぐ痛めてしまいます。(なかなか役に立つトリビアでしょ?) 俺は昔、山のイ族の祭を見に行くために、片道4時間乗ったこともあります。

それと「長卓宴」という、村人全員がテーブルを長くつなげて食事をするシーンがあるのですが、これはやはり、ハニ族の「長街宴」をイメージさせるものでした。ナシ族(ナシ族という民族名も映画では出なかったようですが)に、こういった習俗があると聞いたことはなかったし、俺も今まで見たことはありません。これは、映画のためのものなのかもしれません。

もうひとつ、九十九折の道が出てきたとき、観客から溜息が漏れましたが、あそこは、麗江から瀘沽湖へ向かう、金沙江の谷を降りていく道だと思います。ああいう道だらけなんですね、雲南は。逆に言うとまっすぐな道がない。それでも、十数年前と比べれば、主要な幹線には高速道路もできたし、田舎の道も作り直されて、幅も広い、だいぶ直線の多い道に変わってきています。

ところで、「高田」の息子が、雲南に6ヶ月滞在し仮面劇を撮っていたことといい、その息子が麗江の玉流雪山をボーっと長時間眺めていたことがあったことといい、「高田」と息子の会話があまりないことといい、「まるで俺の話しだな」と、観ていて思いました。しかも、この息子は「健一」という名前でした。

以前観た『山の郵便配達』でも、父親と息子の関係修復のドラマでした。今回の映画もそうです。父親と息子って、難しい関係ですよね。(俺だけかな?)


ya『単騎、千里を走る。』 (以前、ブログで書いた記事)

ya『山の郵便配達』を観た感想(以前、エッセイで書いた記事)

ya麗江の写真

ya麗江ナシ族の写真

 ☆☆☆

ランキング参加しました。よかったら、クリックして投票お願いします。Banner_01
にほんブログ村 写真ブログへ

|

« ぼく、フォリエモンです。 | トップページ | イラン映画『マリアの息子(Pesar'e Maryam)』 »

コメント

toe さま
ミチさま

雲南省は、1年中春のような穏やかな気候で、少数民族の人たちが多い地域です。そのせいもあるのでしょう、人間がやさしく感じます。田舎を旅していると、「お茶飲んでけ」とか「ご飯食べてけ」と、実際誘われます。「高田」がみんなに親切にされるのは、雲南であることを考えると、リアリティがありました。
でも、考えてみると、日本の田舎もそうですね。何度も食事をごちそうになりました。田舎では、人間はやさしくなれるんでしょうね。都会とはちょっと違います。


投稿: あおやぎ | 2006/02/08 08:24

こんにちは♪
TBありがとうございました。
貴重な写真や実体験のお話など興味深く拝見させていただきました。
中国でも公開されるのでしょうが、反応が良いといいですね~。
こうして文化面からでも交流が広まっていくのがいいなと思います。

投稿: ミチ | 2006/02/07 19:34

こんにちは。

コメントありがとうございました。

中国はすぐ近くの国なのに、知らないことがいっぱいなので、あおやぎさんの記事をとても興味深く読ませていただきました。

この映画が一つの始まりで、今後もこうした日中合作映画が次々と作られるといいですね。

投稿: toe | 2006/02/07 02:11

KUMA0504さま

今回の映画は、何度も雲南へ行っている俺は期待していました。全体的には、気に入りましたが、細部が気になるところがありました。やはり、現地を知っている(と、思い込んでいる)からでしょう。
映画を観るには、よけいな先入観はないほうがいいのかも、などとも思ってみたり。


bakabrosさま

監督が健さんにか、日本人にか、わかりませんが、気を使いすぎたのかなと残念です。日本側からそういう要請があったのかもしれませんが、いずれにせよ、全部、チャンイーモウ監督が撮ってほしかったですね。
「作品」とは、監督の独断偏見でもいいと思っています。それこそ、日本人が観て、違和感を感じても、その違和感を吹っ飛ばしてしまうような映画の出来であったら文句はないわけです。

投稿: あおやぎ | 2006/02/06 17:59

TB返させて頂きましたが、重複してしまいまいました。すみません! 仮面劇の写真、映画のものかと思いました。本当に映画の中の風景そのものですね。雲南省の事もとても興味深く読ませて頂きました。

投稿: bakabros | 2006/02/06 15:02

TBありがとうございます。貴重な写真と記事どうもありがとうございます。これを見て、また中国に一人旅したくなりました。中国の場合は韓国みたいにふらっといって安宿に泊まることはできない、外国人専用ホテルか、大学の寮みたいなところにしか泊まれないと聞いて、あてどのない旅は諦めた経緯があります。あおやぎさんの記事を参考にさせてもらおうと思います。

投稿: KUMA0504 | 2006/02/06 14:59

leeさん
アドレス、載せていただいてけっこうです。

hideさん
コメント、ありがとうございました。
>携帯電話やデジカメやビデオを駆使して
の件は日本人のイメージでしょう。ただし、この場合、「良い日本人」ですね。
日本人も、中国人ならみんな太極拳をすると思っているようなところがあるので、お互い様ですね。この場合も、どちらかというと「良い中国人」のイメージですが。最近は悪いイメージも付いてきましたので。

投稿: あおやぎ | 2006/02/04 12:33

あおやぎさんTB&コメント有難うございます
>携帯電話やデジカメやビデオを駆使して
の件は
何処かで日本人のイメージ?象徴を表して居る物との表記があって、なるほどとも思いました

モチロン映画という虚構の世界ですから、割り引いても。この映画の!チャン・イーモウ監督の描いた世界に堪能しました

あおやぎさん、ご自身が中国紀行されてるわけで大変面白く記事を拝見しました

投稿: hide | 2006/02/04 11:39

はい! 5日に友達と行く約束をしました。
観てきたら 日記に書こうと思っていますが
青柳さんのこの日記のアドレスを載せて
よろしいでしょうか?

投稿: lee | 2006/02/03 10:24

ぜひ、観てください。お勧めします。雲南の「匂い」を感じることができます。
健さん、かっこ良かったですよ。

投稿: あおやぎ | 2006/02/03 08:53

この映画も見てみたい映画の一つでしたが。。。
青柳さんのブログを読んで。。。
つくばへ行って観てこようと思いました。

この地も訪れていたのですね。。。

投稿: lee | 2006/02/02 12:18

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/78642/8450337

この記事へのトラックバック一覧です: 『単騎、千里を走る。』 中国雲南省(その2):

« ぼく、フォリエモンです。 | トップページ | イラン映画『マリアの息子(Pesar'e Maryam)』 »