2061年の福島を舞台にしたショートミュージカルムービー 『MIRAI 2061』
『MIRAI 2061』
箭内道彦さん監修のもと制作された、2061年の福島を舞台にしたショートミュージカルムービーです。この中で、福島県富岡町の夜桜写真が使われています。上の写真です。
どうぞご覧ください。
http://ch.pref.fukushima.lg.jp/mirai2061/
『MIRAI 2061』
箭内道彦さん監修のもと制作された、2061年の福島を舞台にしたショートミュージカルムービーです。この中で、福島県富岡町の夜桜写真が使われています。上の写真です。
どうぞご覧ください。
http://ch.pref.fukushima.lg.jp/mirai2061/
タイの代理出産の問題で、父親とされる日本人男性の目的は何なのでしょうか? 最初は「人身売買か?」と思われましたが、そうではないらしい。では税金対策なのでしょうか? ある報道では、男性は毎年10人から15人の子供を死ぬまで作り続けたいと代理出産仲介業者に話していたといいます。
この近々未来予想ショートストーリー『人類みな兄弟』は、そんな疑問と不安から発想したまったく架空の物語です。こういう物語を語らないと、今の俺にはこの日本人男性の目的のわからなさからくる不安や怖さを解消できないのです。
☆☆☆
アキラは喜びに沸く支援者たちから離れた場所へ移動し電話した。
「父さん。やりましたよ。都知事選、勝ちました」
「そうか、アキラ。よくやった」
重畠光利(しげはたみつとし)は満足だった。
光利は深々と椅子に座り、壁に架けてあるタイ人画家バウスックの「世界」という名画を愛おしむように眺めながら、日本の行く末を思った。
「これで私の理想とする社会が一歩近づいたかな」
今から30年前の2013年ころ、光利は幾度となくタイに渡航し、代理出産を頼んで、自分の子供を作っていた。卵子は世界各国から集めてもらい、自分の精子と人工授精させ、現地タイ人女性を代理母とした。こういったことを商売とする病院がたくさんあった。当時タイでは代理出産に関する法律はなく、金さえ積めば自分の子供を作ることが可能だったのだ。
光利の父親は事業で成功した資産家、重畠家を興した人物だったので、光利は子供のころから金に苦労することはなかった。「やりたい」と思ったことはすべてやれる境遇の人間だった。
光利は30年前、自分が世界に貢献できることは何だろうと考えていた。
光利は自分が「平和主義者で善良な人間」だと思っていた。実際、青年時代も、資産家の御曹司であったがどちらかといえば質素で、あまり派手なことは好きではなかった。喧嘩もしたことがないし、人には親切だった。勉学にもまじめに取り組み、父親に反発した記憶もない。いってみれば典型的な優等生だった。
そんな光利の行き着いた思想は、自分のDNAを持った子供が日本を、そして将来は全世界を支配すれば、喧嘩も争いもない平和なすばらしい世界になるはずだと信じていることだった。
光利は2013年から14年にかけて、タイで1002人の子供を作った。そしてすべて自分の子として認知し、秘密裏に日本に入国させ、全国都道府県に約20人づつ割り振り、養父母を雇って育てさせた。表向きは養父母たちの子供として暮らしていたが、戸籍上はすべて重畠光利の子供であった。教育費も惜しまず、子供たちには最高の教育を受けさせた。
成人した彼らは、ある者は政治家を目指し、あるものは医者になり、ある者は企業家として成功し、ある者は教職を続け、ある者は自衛隊幹部に就いていた。
長男であるアキラは東京都議会議員から今回都知事選に出馬し当選したのだった。
アキラの卵子提供者はブルボン王朝の血を引くフランス人女性で、アキラの目も青く澄んでいて、甘いマスクをしていた。政治家としても優秀だったが、また、タイミングもよかった。
というのも、前都知事の猪野川は、ある企業から闇献金を受け取ったのではないかという疑惑が浮上し、弁明の会見が開かれたが、そのとき激昂してしまい、号泣会見となって世間をアッといわせた。
子供のように泣きじゃくり、言っていることが半分もわからないような猪野川の記者会見の様子は、海外にも配信された。闇献金の真相より、この号泣会見が話題となったきらいもあるが、嘲笑の的になったのがよほど猪野川のプライドを傷つけたのか、自分から都知事を辞めていった。
長男のアキラだけは、他の1001人の兄弟姉妹と違い、父、光利の子として同じ家で育てられた。だから資産家の御曹司であることは有権者も知っていて、金に執着しない候補者だと判断された。今回の知事選は、とくに金にきれいな候補者を選んだ結果だったのだ。
それと、青い目の候補者に、見かけだけが理由で投票した年配の女性票の獲得に成功したことも大きな要因だった。「何も考えない人たち」をいかに取り込むか、そして、そんな「何も考えない人たち」の数さえ集めれば大きな力になってしまう民主主義というものの弱点をうまく利用して、アキラは都知事選に勝利したのだった。
こうして全国津々浦々に重畠家のネットワークができていった。全国都道府県の首長7人、国会議員も18人はすでに光利の息子や娘たちだった。
アキラが日本の首都東京の都知事になったことは、重畠家支配の、第一段階が終わった象徴的な出来事だったのである。
子供は1002人だったが、この子供たちも人工授精と代理出産を利用し、光利の孫は約30万人になっていた。2014年にタイでは代理出産が規制されるようになって、アキラたち息子と娘たちは、アフリカのズワンベ国や、中東のサイラム国で代理出産を頼むようになった。
その後20年で、日本の人口は少子化で5000万人になっていた。光利のひ孫の代になると、人口の半分は光利のDNAを持った子孫で占められていた。そしてとうとうアキラは総理大臣になり、大臣の半数、官僚の主要なポストは重畠家の人間が牛耳っていた。
光利の3男、28男、94女、179男、350女、502男が組織する自衛隊の一部精鋭が、クーデターを決行し、アキラを元首とする独裁国家を宣言した。
国名を「日本」から「シゲハタ国」と変更したのもこのころだった。光利のDNAを持った人間以外、子供を作ることは許されなくなった。全国の役所、学校、駅など主要な建物には、重畠光利とアキラの肖像画が並べて掲げられ始めた。この肖像画の前で一礼しないと不敬罪として捕まってしまう、文字通りの重畠家独裁国家になった。
それから300年。地球の人類はすべて光利の子孫だけになった。光利が描いていた理想の社会は、一応形の上では完成したといってもよかったのかもしれない。
しかしだからといって戦争も争いもなくなったかというとそんなことはなかった。血のつながった肉親の争いはむしろ以前よりも熾烈をきわめていた。世界のあちこちでは戦争が起き、テロ事件が多発し、殺人事件においては日常茶飯事だった。
そんな混沌とした世界で、光利の墓は聖地となっていた。墓碑にはこの言葉が刻まれている。
「人類みな兄弟」
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成田発モスクワ行きのアヘロフロート258便の出発予定時刻、午後2時26分をすでに6時間も遅れ、午後8時40分にようやく離陸した。
雪田一馬はアヘロフロートはよく遅れると聞いていたが、まさか自分がこんな目にあうとは思っていなかった。
「まいったな。これで乗り継ぎ便にも間に合わないな」
雪田は、モスクワで乗り継いで、イランの首都テヘランに向かう予定だった。その乗り継ぎ時間は4時間あって、普通なら余裕のはずだったのだ。しかしすでに6時間遅れている。テヘラン行きには絶対間に合わないだろうと覚悟した。
アヘロフロート258便はモスクワのシェレメチェボ国際空港に到着した。雪田は機内から急いでトランジットのカウンターへ走った。
「テヘラン行きはもう出ましたか?」
「とっくに出ましたよ。次の便までお待ちください」
「次の便はいつ? 明日?」
それには係員はわざと知らないふりをしているのか、雪田と目を合わさずに、
「次の便までお待ちください」
と繰り返すだけだった。
ここでアヘロフロート便に乗り換える旅行者は雪田の他、10人ほどいたが、彼らはみなヨーロッパへ向かう人たちだった。
係員はみんなを集めて何か説明を始めるらしかった。俺には関係ないと少し離れて立っていた雪田にも手招きして、係員はいっしょに説明を聞くように促した。
ヨーロッパ便は明日の早朝発で、これからトランジットホテルへ連れて行く、宿泊や食事に関する費用はすべてアヘロフロート側が持つという説明を受けた。
みんなは遅れたことへの不満よりは、モスクワで1泊できることになった幸運に喜んでいるのか、笑顔が見えた。雪田だけは、不安を抱えたままだった。
空港内の複雑な通路を通って、あるエレベータの前に出た。従業員用のものではないかと思えるほどの、薄汚れたエレベーターだった。
8階のフロアでエレベーターを降りて、廊下を歩いていくと、ドアの前に警備員らしい男が座っていた。係員がロシア語で何か告げると、男はポケットから鍵を取り出し、そのドアを開けた。
「さぁ、みなさん入ってください」
と係員は言った。雪田たち全員ドアから中へ入ると、背後で、ドアに鍵が掛けられる音がした。
8階のフロアの廊下を進みながら、ひとりひとり名前を呼ばれ、部屋が割り当てられていった。そして最後に残った雪田には、8013号室が与えられた。
「いいじゃないか」
部屋は広く、ベッドがふたつ置いてある。家具調度品も、4つ星クラス程度の部屋だ。広い窓を覗くと、吹き抜けになったホテルの中庭で、下はレストランになっていた。上を見ると、さらに4階分ほどある。だから12階ほどの巨大ホテルであることがわかった。
雪田も、テヘラン行きがいつになるかわからずいらいらしていたが、この状況をみて、少し気持ちに余裕が出てきた。
さっそく下のレストラン行こうとした。廊下を歩いてみたが、エレベーターが見当たらない。さきほどのドアのところへ行くと、カウンターに係員がいたので、雪田は言った。
「下のレストラン行きたいので、ここを開けてくれませんか?」
「だめです。あなたたちはここから出ることが出来ません」
「どうして?」
「あなたたちはロシアのヴィザを持たないトランジット客なので、歩けるのはこのフロア内だけです。下のレストランはロシアに入国しないと使えないんです」
雪田は、ロシアは乗り換えのつもりだったので、当然ロシアのヴィザも取っていない。だからロシアに入国はできないのだ。ようやく自分の置かれた状況が理解できてきた。
「でも、お腹が空いたので何か食べたいんですよ。さっきの説明では、食事も出してくれるって言ってたじゃないですか? このまますきっ腹で寝ろとでも言うんですか?」
「もちろん、これからみなさんをレストランに案内するとことでした」
「そうなんですか、それを早く言ってくれれば」
腹が減っては戦ができず、みたいな言葉はロシアにもあるんだろうか。係員が各部屋を周って、ドアをノックした。いっしょに飛行機で来た全員が廊下に集まった。
「これから食事にでかけます」
「わーい」
みんな喜んでいた。寝るところも快適だし、あとは食事を楽しむだけだ。明日の出発も決まっている。雪田だけはいつ出発できるかわからなかったが、みんなのテンションに乗せられて、もう心配しても始まらない、今を楽しもうと開き直っていた。そこが「旅人の才能」といってよかった。
ドアが開けられて、向こう側に出ると、エレベーターに再び乗った。係員はB2のボタンを押した。地下2階のレストランらしい。
物置のような廊下を進み、たどり着いたのは、さきほど吹き抜けの下に見えていたしゃれたレストランとは似ても似つかない、まるで会議室のような殺風景な部屋で、中華レストランに置いてあるような円卓が、4卓並んでいた。みんなの顔には、あきらかに期待をうらぎられた残念そうな表情が現れていた。
すでに欧米人の先客がいて、ひとり、黙々と食事をしていた。雪田は、この欧米人に、ひっかかるものを感じた。
背は高く、メガネをかけて賢そうだが、神経質そうでもあった。ズボンとシャツがよれよれで、長く旅していることがわかった。しかし不思議なのは、「旅人」が持っている、非日常を楽しむ独特の「匂い」がないのだ。時々、周囲を見渡すような警戒心を見せるのにも、違和感を持った。
雪田は、彼の後ろ側に、背を向ける格好で座った。
食事が運ばれてきたが、ボルシチ、ピラフ、コロッケなどだった。雪田は、まずくはないが、かと言っておいしくもない食事だと思った。隣に座った20歳くらいの日本人女性が雪田に話しかけてきた。
「1階のレストランじゃなくて、残念ですね」
「そう。てっきりあのしゃれたレストランかなって、俺も期待してたんだけど。アヘロフロートってケチだよなぁ」
「しかたないですかね」
「このボルシチ、味が薄くって食えたもんじゃないよ」
そのやり取りを聞いた後ろの欧米人が声をかけてきた。
「シ~ッ。駄目ですよ、そんな大きな声でしゃべったら。従業員に聞かれますよ」
「聞いてないですよ。彼女との会話は日本語だし。わからないでしょ?」
「あなたわかってないですね。日本語わからないふりをして、どんな会話をしてるかちゃんと聞いてるんですよ」
「そんなバカな」
「ひとりひとりの会話は些細でも、それが積み重なったデータは、大切な意味を持つし、世界を変えてしまうことも出来るんです」
「大げさですね。ただ食事が豪華じゃなくて、残念ていうだけなんだから」
欧米人は何か宙を見ながら考えてから、もう言っても無駄だと思ったのか、あっさりと話題を変えた。
「トランジットの客に豪華な食事なんて出さないですよ」
「そりゃ、そうでしょうが」
雪田は彼が嫌味を言ったと思った。自分だってトランジットの客だろう? 前からいるからって先輩面すんな。それにしても大げさなやつだ。
「慣れればおいしいですよ。ここの食事も」と欧米人は言った。
「長くいるんですか?」
話もしたくなかったが、成り行きで聞いてみた。
「1ヶ月くらいかな」
「1ヶ月? そんなに長く?」
雪田は驚いた。普通の旅行者ではないようだ。
「これからどちらの方へ向かうつもりなんですか?」
「さぁね」
この男はシニカルなやつだと雪田は思った。自分の行き先くらい自分でわかるだろうに。
「いろんな人が、うちの国においでとは言ってくれますけどね」
何言ってるんだ?この男は、と雪田は思った。
そのとき、廊下がどやどやと騒がしくなった。制服の男たち10人ほどが入ってきた。欧米人は青い顔をして雪田のズボンのポケットに手を突っ込んだかと思うと、急いで逃げだした。制服の男たちは椅子につまづいて床に転んだ彼を取り押さえた。
雪田をはじめ、トランジット客や、レストランの従業員も、この突然の捕り物劇を、あっけにとられて眺めていた。そして時間が経つにつれて、「さっきの男は何をしたんだろう?」と話題にしたが、従業員も含めて、それに答えられる人間は一人もいなかった。
その2日後、ようやくテヘラン行きが出て、無事にイランに入国できた雪田は、その夜テヘランのホテルで、あの晩の欧米人のことを思い出していた。
「そういえば、あいつは俺のズボンのポケットに手を入れたな・・・あっ、これは」
ポケットからは小さなメモリーカードが出てきた。さっそく雪田はパソコンを立ち上げて、メモリーカードを挿入した。すると次のような画面が現れた。
「国というのは、表で見せるタテマエの顔のほかに、裏の顔がある。私はこの資料を暴露することで、一般市民と国との乖離を世界に知らしめたいのだ。アドワード・スノーデン」
何か胸騒ぎがして、自分の名前「カズマ・ユキタ」で検索したら「ジャパニーズ カズマ・ユキタ」というファイルがヒットした。クリックすると、勝手にネットに接続し、このファイルが更新された。
「ファイルナンバー8013 ------- カズマ・ユキタ: トランジットの食事(とくにボルシチの味)について不満あり。将来アヘロフロートをハイジャックする可能性あり。要注意人物」
(おわり。これはすべてフィクションです)
レバ刺し禁止カウントダウンで“特需”に沸く焼肉店
(週プレNEWS http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20120627-00000225-playboyz-soci)
とうとうレバ刺しが店から姿を消します。7月1日以降レバ刺しを提供すると「2年以下の懲役か200万円以下の罰金」だそうです。かなり厳しい罰則です。
「安全」のためという大義名分はわかるのですが、いきなりの全面禁止。行き過ぎではないんでしょうか? もう少し「自己責任」を認めてほしい。俺たちはバカじゃないんだから。
☆☆☆
ガンとマックは、拳銃を強く握りしめ、タレコミがあった部屋のドアを足でけった。
「動くな! LSPだ!」
中では男と女がテーブルを囲んで、例の物を口にしているところだった。ふいを突かれた彼らの口からは、赤い色のプルンプルンしたものが垂れ下がっている。ガンとマックがふたりに銃口を向ける。
「飲み込むなよ」
とガンは言って、ふたりの口から垂れ下がったそれを引き抜いた。そしてポケットから試薬を取り出した。
「いいか、この試薬かけて青色になったら正真正銘のレバ刺しだからな」
レバ刺しが禁止されたのは2012年。その数年後「レバ刺し取締法」ができて、提供者だけではなく、食べた本人も処罰の対象になった。
そして食べるのを手伝った人間も「レバ刺し幇助」の罪に問われる厳しいものだ。たとえば、焼肉店で、レバ焼きを頼んだ客に生レバーを出したら「レバ刺し幇助」になる。客がそれを焼かずに生で食べてしまうという事件が続発した。だから店では、レバー焼の注文を受けたら厨房であらかじめ焼いてから出すしかなくなった。
ガンとマックは警視庁の特殊部隊「LSP」に所属している。違法となったレバ刺しを取り締まる部署、通称「レバ刺しポリス Leba Sashi Police」だ。
禁止になった当初から、レバ刺しの食感や味をまねた擬似レバ刺しが出回っていた。「マンナンレバー」だ。こちらは「脱法レバ刺し」と呼ばれている。
悪人たちは、「脱法レバ刺し」では満足できなかった。本物を食べるために地下にもぐったのである。危機感をつのらせた当局は、取締りを強化した。
その背景には、2012年レバ刺しの提供が禁止されたころと同時期、「脱法ハーブ」というものが出回っていたが、こちらは明らかに人体に危険を及ぼすことがわかりながら、野放し状態であった。その後取締りが始まると、地下にもぐった。そのことに対する批判があいついだ。それで当局は、先手を打って、危険なレバ刺しを、今の段階で根絶することを世間に向けてアピールする意味あいもあったのである。
試薬は青を示していた。本物のレバ刺しだ。男と女は言い逃れができなかった。
「許してください。私、貧血ぎみで、医者から鉄分を取りなさいといわれていたんです。だからつい出来心で・・・」
と女は泣きながら訴えた。ガンは青色に変わったレバ刺しを、女の目の前に突きつけながら言った。
「そんな言い訳が通用すると思うのか? 100gあたりに含まれる鉄分の量では、ヒジキとキクラゲのほうが上なんだ。「食品摂取法」に書いてあるだろ? 鉄分はヒジキとキクラゲで採れと。でも、ヒジキの場合は、体に吸収されにくいので、ビタミンCや動物性タンパク質を含む食品と組み合わせて採る必要があるんだがな。「食品摂取法」に違反しても懲役5年だ。ましてやレバ刺しで鉄分補給だと? 重罪だぞ」
テーブルには天秤が置かれ、片方の皿には錘が、片方の皿にはレバ刺しの切り身が乗っていた。冷蔵庫の中からは、20gに小分けされた冷凍レバ刺しの入ったビニール袋が大量に見つかった。男はレバ刺しの売人、女はその顧客らしい。
「どこから手に入れた?」
闇ルートがあるはずだった。最近では、レバ刺しが中国から密輸される事件もあいついでいた。尖閣諸島で日中双方の漁船が近づき、そこで受け渡しが行われていたのだ。
ガンは密輸船の摘発現場に立ち会ったこともあった。そのとき漁船からは末端価格10億円の冷凍レバ刺しが見つかった。これを廃棄処分すれば、何人もの日本人の命を助けられるのだと、ガンは、自分の仕事に対する誇りと満足感にひたったのだった。
それは一瞬の隙だった。
男がガンに突進し、試薬に染まったレバ刺しを手に取ると、ガンの口にねじこんだ。その衝撃で、ガンの銃口からは弾が発射され、天井をぶち抜いた。あわててマックが男を取り押さえた。
「ガン、大丈夫か?」
と、マックは男の顔を床にねじふせて言った。
「あぁ、大丈夫」
そういって、ガンは床にレバ刺しを吐き出した。
男は取調べの結果、日本における闇レバ刺し販売の元締めだとわかって、死刑の判決を受けた。
客の女は、裁判でも「鉄分を採るため」という証言を繰り返した。裁判員からは「レバ刺しよりヒジキやキクラゲだと、まだ反省していないのですか?」と厳しく問いただされた。しかも悪質なことに、ごま油と塩で食べていたことが発覚。これは裁判員たちの心証をさらに悪くしてしまい、女に無期懲役が言い渡されたのだった。
そのテレビニュースをガンとマックはLSPの本部で見ていた。
「ごま油と塩じゃぁ、無期はやむをえないだろう」
と、マックは吐き捨てるように言った。
ガンは、どこかうつろな目で眺めていた。あのとき、ガンは、レバ刺しを少し食べてしまった。マックからは、「多少口に入っても、ただちに健康に害はない。気にするな」といわれたが、ガンが悩んでいたのはそこではなかった。
「どうしてあんなにうまいものが禁止されているんだろうか」
LSPに配属されて2年、彼はこれが正しいことだと思って働いてきた。しかし、レバ刺しのとろけるような舌触りと味に、彼の信念は揺らぎ始めていたのだった。
「今度はごま油と塩で食べてみたい。いやニンニク醤油のほうがいいだろうか。迷ってしまう・・・」
禁断の味を知ってしまったガンの苦悩は、いまや、レバ刺しをどうやって食べるかだったのである。
(おわり)
今回は「近々未来」ではないかもしれません。遠い未来の話です。くだらないパロディSFですが読んでみてください。
☆☆☆
私の乗った宇宙船は故障し、知らない惑星に不時着した。
そこは犬が支配する惑星だった。
トウモロコシ畑で犬軍団に捕らえられた私は、この惑星の下等動物、「人」といっしょに町に連れて行かれ、檻に入れられた。そこは「ペットショップ」だった。「人」は見かけは私と同じ人間だったが言葉はしゃべらなかった。
私は様子をみた。
ペットショップの店員は、
「ほら、おすわり」
といった。わからないふりをした。すると、「こいつは、オバカそうだなぁ」と店員の犬は私を指差して笑った。すると店長らしい犬が「まぁ、オバカな人が好きな犬もいるから、殺処分にはまわさないで置いておくことにしよう」と言った。「最近、政府の取り締まりがきついからなぁ。バカすぎる人と、賢すぎる人は、すぐに殺処分だ」
私は他の人と同じように黙っていることにした。『猿の惑星:創世記』という21世紀に公開された大昔の映画を観たことがあったが、知能があることを知られると、逆に危険があることをわかったからだ。
ある日、ぺっトショップに夫婦連れの犬がやってきた。人を買いに来たのだった。
こんな檻にずっと閉じ込められているのは嫌なので、この夫婦に買われていくことにした。
奥さんは「おいで」と言って、お尻を突き出した。私はすかさず奥さんのお尻の匂いを嗅いで、ゴロンと仰向けになってお腹を見せた。
奥さんは「いい子ねぇ」と言って、おやつの豚耳の皮を差し出した。私はきちんとお座りをして待った。
旦那さんは「こいつ、賢いぞ」といった。「よし!」と言われて私は豚耳の皮をクチャクチャと噛んだ。
「この子にしましょうよ」と奥さんは言い、旦那さんも「そうしよう」と言った。
こうして私はこの夫婦に飼われることになった。運良く彼らは、「愛人家」で、私をとても可愛がってくれた。私に「わさお」という名前をつけた。
ただひとつ恥ずかしかったのは、男の私にピンク色でふりふりの洋服を着せることだった。もっとも、私を知っている地球人はここには誰もいないし、意外とふりふりの洋服も、慣れてくるとまんざら嫌いではなくなっていった。
1週間ほどして、私は言葉を話してみようかと思った。彼らだったら、言葉を話しても、危険な動物ではないことを理解してくれるのではないか。少なくとも、どこかの研究所や、テレビ番組に売ったりはしないだろうし、政府に通報したりしないだろう。
夕飯を食べた後、「ありがとうございます」と言ってみた。突然しゃべった人の姿に驚いている。
「わ、わさお、しゃべったわ!!」
「私は言葉がわかるんです」
二人とも、「ワンワン」と鳴きだし、興奮し、舌をだらりと下げて、ハァハァいっていた。旦那さんは片足を上げて、ソファーにオシッコをかけてしまい、部屋中をくるくる回り始めた。奥さんは床の上にウンチをしてしまった。言葉をしゃべる人を見たのははじめてだからしかたなかった。頭が混乱しているようだった。
でも、思ったとおり、二人は分別のある犬だった。それで、冷静になってくると、私の話を真面目に聞いてくれた。
私が「地球」という惑星から宇宙船でやってきたことを話した。ふたりは「地球」の話に興味を持ったようだった。地球では人が言葉をしゃべること。人と犬が仲良く暮らしていること。でも、立場がこことは逆で、人が犬の面倒をみていること。
夫婦は教えてくれた。
政府は最近、人が増えすぎたといって、簡単に殺処分するようになったことに、この夫婦も反対しているのだという。獰猛だったり、賢すぎる人は、とくにすぐ捕らえられる。それに反対する犬たちで「人を保護しよう」という運動も起こっている。しかし政府は弾圧を強めている。そしてなぜか「アユビス」に立ち入ることを禁止するようになったらしい。
「アユビス?」
この町の郊外、「アユビス」という地区は、犬たちにとっての聖地であり、また同時にタブーの地でもあるらしい。そこには「犬の神の像がある」と信じられている。しかしそれは都市伝説のようなものだった。「アユビス」へ行って戻ってきた犬はいないからだ。
「このまま政府の取締りが厳しくなっていけば、いずれ、わさおも連れていかれるかもしれない」
「そうなる前に逃げて、わさお」
私は夫婦にお礼を言い、別れを告げて「アユビス」へ向かった。そこへ行けば、何かがわかるような気がしたからだ。
警察犬の追跡をかわし、ジャングルをかき分けてたどり着いた広場は、見たことのないような高層ビルに囲まれていた。しかしビルはすでに廃墟のようだった。
「ここがアユビスか・・・」
広場の真ん中に高さ2mほどの銅像のようなものが建っていた。私はその銅像に近づいた。
「これが犬の神か」
銅像の隣に立っていた碑文にはこうあった。
「我ら犬は、人への恩を忘れない。23世紀になって、何でも機械に頼るようになり、頭を使わなくなった人は、脳が退化し、言葉もしゃべらなくなった。もはやこの地球の支配者の座は人から犬に移った。しかし我々は今までの恩を忘れてはいけない。人と犬は互いに助けあってきた。だからこれからも我々は人を保護していかねばならない。」
その銅像はさび付いていたが、よく見ると犬の姿をしていた。そして台座には文字が見えた。
「忠犬ハチ公」
と。そして地面に落ちていたプレートには、「AYUBIHS]の文字が。
「アユビス・・・後ろから読むと・・・」
私はすべてを理解したのだった。
ビル壁面の巨大な「109」の文字が夕陽に反射して不気味に光っていた。
☆☆☆
中国の広西チワン族自治区と貴州省へ行ってきます。そのためブログ、ツイッターはしばらく休みです。コメントもお返しできません。ご了承ください。なおブログは、6月10日ころ再開します。
その代わりというのもなんですが、ショートストーリーをひとつ書いて出ます。
☆
『暑がりません、秋までは』 (近々未来予想ショートストーリー)
2011年7月28日。
その日、午前中から30度を越え、午後2時には38度の猛暑日になった。
扇風機では我慢できず俺はエアコンをつけた。天国からの風だ。これで生き返ると思った。
そのとき表から声がした。
「この家の人、出てきなさい!」
玄関の戸を開けると、緑色の腕章を付けた10数人のおじさん、おばさんが立っていて、ぎょっとした。なぜぎょっとしたかというと、おじさんたちは海パン、おばさんたちはビキニだったからだ。
そのうちのひとり、拡声器を持ったメガネをかけたおばさんが、「エアコンは切ってください!」と俺に向かって叫んだ。
「なんですか、あなたたちは?」
「私たちは、節電組の者です。みんなが節電に励んでいるとき、あなたはなんですか? エアコンなど使って。恥ずかしくないんですか?」
額に青筋を立てたおじさんは、
「節電しない人は非国民ですよ、あなた」
改めてよく見たら、彼らは幟を掲げていて、それには、
「暑がりません、秋までは」 「エアコンは国民の敵だ」
などと書いてある。
「私たち節電組は、住宅街を回って、節電の啓蒙をしているんです」
「とくにエアコンを使っている人たちに。室外機が動いていれば、使っているのがすぐわかりますよ」
そのとき、ひとりの若い女性が通りかかった。そして彼女は節電組のおばさんたちに捕まった。
「あなたスカートの丈が長すぎます。ダメじゃないですか。これじゃぁ暑すぎるでしょ」
「自己批判しなさい。『私は長いスカートを履いた愚か者です』と」
若い女性は、「いやです」と答えた。すると、
おばさんたちはスカートを無理やり脱がせてしまった。スカートを脱がされた女性は、泣きながら走っていった。
「ひどくないですか? そこまでやらなくても」と俺は抗議した。
「何を言っているんですか、この非常時に。あなたたちのような人がいるからダメなんです」とメガネのおばさんはいった。
「あなたのズボンも脱がしますよ」と青筋立てたおじさんはいった。
彼らは額から汗を滴らせながらも、顔には自信がみなぎっていた。反論できるような雰囲気ではなかった。いや正直な話、俺はそのとき恐怖を感じた。それで俺は、
「わかりました。すぐ消します」
といって家の中に入りエアコンを切った。カーテンの陰から見ると、表の集団は、みんな満足げな顔をして、3丁目の方へ歩いていった。
その夜、俺は自己嫌悪に陥った。なんて情けないやつなんだろう、俺は。あんなやつらに屈してしまうとは。
それから俺はネットでこんな商品が闇で売られているのを知った。勇気がわいてきた。すぐに注文した。
「音がしない室外機。これで思う存分エアコンを使うことができる。同士よ、立ち上がれ! 反節電レジスタンス一同」
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