フランスでアルバイト 3
ユースには毎朝地元の葡萄農家が人手を集めにやってきましたが、なかなか仕事にありつけませんでした。でも、ある朝、俺たちも使ってもらえる機会がようやくやってきました。
雇う条件として「フランス語がわかる人」と言われて、俺とOさんは元気よく「ウィー(はい)!」と手を上げました。それで採用になったのでした。よほど人手不足だったんでしょうね。俺が明らかにフランス語ができないのは見え見えでしたから。
小型のトラックの荷台に乗せられて、葡萄畑へ向かいました。フランスの葡萄畑は、日本とは違っていて、お茶畑のような高さで木が生えています。だから葡萄は、中腰になって摘んでいくのです。ひとりひとり、籠を渡されました。その籠をいっぱいにしたら、もっと大きな籠にあけるのです。
俺とOさんは、やっとありついた仕事に嬉しくなり、張り切って摘みました。いや、張り切りすぎたのでした。何人かのバイトの連中と横に並んで、摘みながら前進していくのですが、あまりにも俺たちのスピードが速すぎたので、監督から注意されました。それで今度はなるべく遅くやったのですが、こんどは他の人たちから遅れてしまい、「もっと速くやれ」と注意されてしまいました。「日本人は働き者だと聞いていたが・・・」というような、嫌味を言っていたようです。
そのうちコツもわかってきて、他の人たちと同じようなスピードになってきました。他のバイトの連中は、ポルトガル人が多かったようです。出稼ぎですね。彼らもあまりフランス語ができないことをあとで知りました。彼らの仕事を見ていると、ときどき、木の下に頭を下げてなにかやっているようでした。それは、ワイン用の粒の小さな葡萄ではなくて、たまに、マスカットのような大粒の葡萄がなっていて、それを監督に見つからないように、木の下に隠れて食べていることがわかりました。俺たちもまねをして、喉の渇きを癒したのでした。その葡萄のおいしかったこと。
一日葡萄摘みをして体はぼろぼろでした。とくに腰が痛かったですが、仕事が終わったあとは、ポリタンクに用意されていたワインが飲み放題で、俺たちとポルトガル人たちは、言葉が通じませんでしたが、楽しい酒盛りをしました。
ユースに帰ったら、ベッドに倒れこんで、すぐ寝てしまいました。そして次の日も同じ仕事をやったのでした。ただ、このバイトもこの二日間しかありませんでした。バイト代は、一日6000円くらいだったと思います。二日だけだったので、結局十分な資金を作ることができませんでした。
やっぱり外国で働いて金を稼いで旅を続けるなんて、そう簡単ではないんだ、そろそろ日本に帰った方がいいかもしれないなという考えが、ふと頭をよぎったのでした。
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