今日、用事で銀座へ行ったときのことです。
「マキちゃ~ん!」
その声に俺は敏感に反応してしまいました。振り返ると、その「マキちゃん」と呼ばれたおばさんは、地下鉄の改札越しに、おじさんから白い紙袋を受け取りました。「マキちゃん」は忘れ物をしたようです。
俺はおもわず、ニタニタ顔。その「マキちゃん」は、人間からバナナをもらっている猿に見えたからでした。「マキ」と聞けば「ワオキツネザル」を思い出してしまうのは、マダガスカルから帰ってまだ2週間しかたっていないからです。マダガスカルでは、「マキ」とは現地の言葉で「ワオキツネザル」のこと。
思わず、ニタニタ笑ってすみませんでしたが、こういう理由で笑ったのです。へんなおじさんではありません。
さて、小話はこれくらいにして、今日もマダガスカルの話を書きます。今回は「イサル国立公園」で出会った「マキちゃん」やシファカなどの話です。
ラヌヒラは、ゲストハウス、ホテルも数件ありますが、メインストリートが200mほどの小さな町で、イサル国立公園の基点になります。公園の管理事務所で手続きをして公園に入るわけですが、行く場所、日数、ガイドによって料金は変わります。俺たちはあまり時間はなかったので、マキ・キャニオンだけ1日有効のチケットを買い、ガイドを雇いました。
マキ・キャニオンは、ラヌヒラの町から20kmほど離れていますが、草原の中の土道を車で行きます。左手に見える絶壁の何ヶ所かが縦に割れていて、そこが奥まで続く峡谷になっているのがわかります。すごい風景です。
入り口に近づくにつれて、集落と水田が見えてきました。公園の現地ガイドのダニエルさんによると、この集落がもともとのラヌヒラの村だったという。バラ族の男が、「買わないか?」とニワトリを持ってやってきました。値段を聞いたら、1羽6000アリアリだと言っていました。その日は2週間に一度開かれるラヌヒラでのマーケットがあるらしく、男は、そこへ行く途中だったらしい。物を売買するのは当然ですが、若い人たちにとっては異性を探す場所でもあるとのことです。ここだけではないですが、マーケットはそういう場所でもあるんですね。
駐車場で車を止め、そこから30分は、川を渡り、水田のあぜ道を歩きます。バラ族の墓もありました。正確に言うと、それは墓標だけで、骨はどこか遠くに埋めてあり、この下にはないそうですが。
田んぼは、ちょうど田植えと、牛をたくさん使って田んぼの泥の中を歩かせて耕す「踏耕」が行われていました。そして稲刈り直前の田んぼもありました。赤いコメではなくて白いコメを作っているそうです。ここは、標高900~1000mで、高地に比べると暑いので、2期作も可能です。
いよいよジャングルに入る手前、緑金色に光る「マンテラ」と呼ばれるカエル(キンイロマダガスカルガエル属)と、20cmほどのゲッコーを発見。ジャングルに入って川に出たとき河畔の木の枝に真っ赤な鳥が止まっていました。これは「フーディ」と呼ばれるベニスズメの一種。繁殖期には、オスが赤くなりますが、他の季節は目立たなくなるらしい。ガイドのダニエルさんは、「フーディ」はコメをついばんで茶色に変化していくと言いましたが、ちょうど収穫の時期と重なるからであって、コメを食べるからではないかもしれません。。
ジャングルを歩くこと15分、また川に出ました。ダニエルさんは、俺たちを残してレムールを探しにでかけました。待つこと10分、彼が「いたよ」と言いながら戻ってきました。速く行かないとレムールは移動してしまうから、と急がされました。
ダニエルさんは、もともとアンタナナリヴ出身ですが、20年以上ここに住んでいるので、現地人といってもいいでしょう。裸足でジャングルを移動するのですが、着いていくのがせいいっぱいです。坂があるし、道は狭いし。息を切らして急坂を上ると、ダニエルさんは上を指差しました。
「いたーっ!」
ワオキツネザルとシファカ。約10匹が木の枝にしがみついていました。そして木から木に飛び移ります。木が揺れる音が静かなジャングルに響きます。レムール(キツネザル)という名前の通り、猿と言えば猿ですが、狐のようにも見えます。
ワオキツネザルの子供でしょうか、かなり近くまで近づいてきました。好奇心旺盛です。物をねだっているようにも見えました。物をあげるのはもちろん禁止されていますが、この子供のワオキツネザルの行動を見ると、過去、人から物をもらったことがありそうです。
木から木へ軽やかに飛び移ります。6mも飛ぶそうです。こんなレムールの集団は3グループあるらしい。でも、レムールのようにジャングルを走り回るダニエルさんがいなかったら、こんな広い場所でレムールを見ることはできなかったでしょう。さすが現地ガイド。
この公園には他にブラウンレムールもいるらしいですが、木の高いところに住んでいて、見るのは難しいそうです。
また川まで戻って、峡谷(マキ・キャニオン)を200mほどさかのぼっていきました。他の外国人観光客が10人ほど休憩していました。そこには、昔、領主様しか浴びることができなかったという天然のシャワーがあります。対岸の岩場から水がシャワー状に落ちていましたが、涼しげです。今でもここは聖なる場所で、地元のバラ族の人たちがお供えを持ってきたりしているとのことです。
人と猿が静かに暮らしていた時代があったのですね。それが毎日観光客がやってくる場所になりました。今は雨季で観光客は少ない時期です。少ない時期でこの人数。ピーク時には何人やってくるのでしょうか。そんな大勢でやってきて、あんな狭いジャングルでレムールを見ることはできるのかな?と、いらない心配をしてしまいます。押し合いへし合いしながら見上げる観光客の姿を想像すると、ちょっとこっけいです。
ジャングルを抜けたとき、目の前を2匹のカメレオンが通り過ぎていきました。オスとメスらしい。ただ意外と速く歩いていって、あっという間に草むらに入って見えなくなりました。マダガスカルでは野生のカメレオンをよく見るという話を聞いていたのですが、今回、野生のを見たのは、この2匹だけでした。
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