マダガスカルの旅(8) ある農家の話
ある農家を訪ねました。
アンブシトラ郊外の農家の主人は、ラライベーロさんといい、キリスト教徒で85歳でした。彼の息子さんたちが、3階建ての民家の庭先で作業中。ビニールの前掛けをつけ、専用の石に稲を打ちつけて脱穀していました。飛び散った籾が庭先に散乱しています。民家の西側に棚田が広がっていて、稲刈りをやっている人の姿が見えました。そこで刈られた稲が、ここに運ばれてきて脱穀されます。
脱穀された籾は天日乾燥したあと貯蔵されます。当面食べるコメは3階の部屋に袋詰めにして積み上げられていましたが、残りは、庭先に掘られた直径1.5m、深さ2.0mほどの穴倉に入れられます。穴倉を見せてもらおうとしましたが、直系40cmほどの鉄板のフタがしてありました。フタは重石で押さえています。この大きさの穴倉は全部で3つあります。
穴倉は地下なので、いつも一定温度でコメを貯蔵するには都合がいいのでしょう。民家は、棚田のある高さと比べると、高い位置にあるので、水が流れてくる心配はなさそうです。家族が食べる1年分のコメは、ここに蓄えられています。売るほどの余裕はありません。全部自家消費だそうです。
ただこの地下貯蔵庫は、一般的なものなのかどうかはわかりません。アンバラヴァウ東部の村にいったとき訪ねた別の民家では、コメは2階建て建物の1階部分に貯蔵してありました。
ふたりの息子さんたちはそれぞれ家族を持っていて、この民家でいっしょに暮らしています。総勢15人の大所帯です。階ごとに2つづつ部屋がありました。かなり堅牢な建物です。窓はあまり大きくないので、中は薄暗く感じます。ガラス窓などはありません。
マダガスカルの伝統的な農家の玄関は、西側を向いているそうです。この家もそうでした。山口洋一著『マダガスカル アフリカに一番近いアジアの国』(サイマル出版会1991年)によると、それは東からの強風を避けるためという理由と、先祖が住んでいるのは西方向であるという彼らの宗教的観念とも関係があるとのことです。
2階、3階に、それぞれ囲炉裏(厨房)もありました。燃料は薪を使います。鍋が3つほど置いてありました。コメはこの鍋で煮ます。ひとつの鍋には、「ラビトト」が入っていました。この「ラビトト」というのは、キャッサバ(マニオク)の葉を細かくしたもので、この葉まで食べてしまう文化が世界中でどれほどあるかわかりませんが、マダガスカルではポピュラーな料理です。食感がまるでお茶の葉のようですが、これと、豚肉、あるいは、牛肉(ゼブ牛)といっしょに煮たものが、おかずになります。少量の「ラビトト」で大量のご飯を食べます。
俺も2度、この「ラビトト」を食べました。喉にひっかかるような感じがして、あまり好きになれませんでした。アンタナナリヴのスーパーでも「ラビトト」が売られていたので、土産に2袋買ってきました。肉をもっと細かくして、味付けを考えれば、もっとおいしく食べられそうな気がします。そのうち、試してみようと思います。
部屋の中には、ベッドが置いてあります。布団(マット)も敷いてありました。寝るのはベッドと布団、両方使うんですね。3階の上、屋根裏部屋はちょっとした農具なども置いてありました。建物の外では、豚1匹、ゼブ牛4頭が飼われています。
棚田、山の森林、引いてきた水路、レンガ造りの3階建て民家、家畜たち、そして3代にわたる家族たち。これらすべて一体となって、昔から代々に伝わってきた、ささややではあるけれど、完成されたシステムであることを感じさせるのでした。この中で、どれひとつ欠けても、長くは続かないんだろうなと思いました。
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