俺はどうして犬に噛まれるのか?(3)
今度は雲南省の犬です。
雲南省西部に、アルハイ湖や蒼山に囲まれた風光明媚な標高2000mの高原盆地の町、大理があります。大理古城(旧市外)に泊まった俺は、毎朝暗いうちに招待所を出て、アルハイ湖まで歩いて写真を撮りにでかけていました。1987年当時は、レンタサイクルも、ましてやタクシーなんかもなく、歩くしか方法がなかった時代です。町から湖畔まで約4km。歩くと1時間ですが、それはたいした問題ではありませんでした。ただ、いつも頭を悩ませていたのは、途中襲ってくる犬たちでした。
それでカメラの三脚を前に構えて、振り回してなんとか逃げていたのですが、あるとき、いいアイディアを思いつきました。それは、ビスケットを持っていって、襲ってきたら、鼻先に投げつければ、それを食べて、俺が「敵」ではないことがわかるだろう、餌で犬を手なづけることができるはずだ、と思いました。我ながらいいアイディアに「俺は天才だ」と有頂天。これなら絶対大丈夫と、自信がありました。
さて前日商店から、その当時はまだぜいたく品である高いビスケットを買い込み、ポケットに入れて出発しました。また村に差し掛かると、犬が吼えながら近づいてきました。それでさっそくビスケットを投げたのです。すると、犬は予想通り、そのビスケットを食べて吼えるのをやめました。
「成功だ」
と、思ったのもつかの間、食べ終わった犬は、何事もなかったかのように、また俺に吼えながら迫ってくるのでした。あわてて、もうひとつ投げました。すると、また同じように、食べている間だけは静かですが、食べ終わると、また吼えるのです。腹が立ちましたね。俺でさえめったに口に入れない高級品のビスケットを食べておきながら、まったく恩を感じていない。俺があげたんだぞ、そのビスケットは。結局ビスケットを全部食べられたあげく吼えられるという結末に、我ながら腹が立ってきました。
この方法は失敗したことを悟りました。それからは、また三脚で追い払うしかありませんでした。
今度は、麗江の犬です。麗江は世界遺産になってから観光客が激増し、今では、雲南省有数の観光地になっていますが、1988年ころは、まだ人も少なく静かな田舎町でした。だから放し飼いの犬も多かったのです。
賓館には貸し自転車があったので、ある日、借りて郊外に点在するナシ族村を訪ねてまわりました。
ある村の入口に差し掛かったときです。前方に犬を発見しました。犬もこちらを発見。道は一本道。どうしようか考えましたが、とにかく進むしかなかったので、全力で駆け抜けることにしたのです。でも、これが大失敗のもとでした。走ってはだめなのです。犬は、哺乳類の中でも、かなり足が速い動物なのでした。しかも動くものが大好きです。
やっぱり、とんでもないことになってしまいました。当時の中国製自転車は鉛のように重く、スピードが出ないしろものでした。それでも、追い付かれないように必死にこぎました。3匹くらいがお尻に迫ってきました。漫画によくありますが、今まさに噛まれそうだというところで、犬たちの歯音がしましたが、噛まれるには至らず、なんとか難を逃れました。
村を出て、ようやく犬たちが諦めるのを確かめて自転車を降り、その場にへたり込みました。これ以上走る距離が長かったら、きっと、お尻を噛まれていたでしょう。想像しただけでぞっとしました。(あとで聞きましたが、こういう犬たちは狂犬病の予防注射はしてないそうです。今は、大丈夫かな)
しばらく、地面から立ち上がれませんでした。ゼーゼーと息を切らしながら、嫌ーな汗を大量に流しました。こんなにいっしょうけんめい自転車をこいだのは、生まれて初めてです。(競輪の練習にはいいかも)
こういう場合、自転車を降りて、引きながらゆっくり歩いて通り過ぎたほうがいいようです。
こんなことをしていたら、いつかはまた犬に噛まれてしまう。なにかいい方法はないだろうか。俺は真剣に犬撃退方法を考え始めました。(つづく)
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