飲酒運転について
(この写真は、中国新疆ウイグル族のナイフ)
昔、イスラエルをヒッチハイクでまわっているとき、死海のほとりで野宿した翌朝、道路に出たら、ちょうど車がやってきたので手を挙げました。
車が止まり、乗り込んで俺は「あっ、まずい」と思いました。運転席わきには、ビールの小瓶が5、6本並んでいたのです。空になったビール瓶でした。ドライバーのおじさんはもうかなり酔っていました。エジプトへ抜けようとしていたので、「エラートまで」と言ったのですが、おじさんはろれつの回らない口で、「あんたが行きたいところ、どこへでも」と英語で言ったのでした。
おじさんは、車を出しました。レンタカーで旅行しているアメリカ人でした。イスラエルの死海ほとりの道は、幅も広く、車も少ないので、なんとかこんなおじさんでも運転できたのです。
しばらく走ったとき「あんた、運転代わってくれ」と命令口調で言い出しました。「免許証持ってません」と言うと「いらない。大丈夫」と言うのです。もうおじさんは酔いがまわってべろべろだし、砂漠の真ん中で、人家もなく、これは俺が運転したほうがいいかなと思い、代わることにしました。
もちろん、俺は外国で車を運転したのも初めてだし、左ハンドルも初めてでした。おっかなびっくりで始めた運転でしたが、慣れると、気持ちよくなりました。こんなに走りやすい道は日本にはなかったからです。
ある村を通過したとき、ヒッチハイカーがいました。おじさんは「乗せろ」と命令しました。俺は車を止めて彼らを乗せました。彼らは俺に「どこまで行くんですか?」と聞いたので、「この人に聞いてくれ」と俺は、おじさんの方を向きました。彼らが怪訝な顔をしたので「車はこの人が借りたもので、俺はヒッチハイカーなんだ」と言ったら、ますますわけがわからないといった顔をしました。
それで不審に思われたのか、彼らは「ここでいいから」といって、すぐに降りてしまいました。
その日、いろいろあって(軍隊ごっこをするおじさんでした。完全にイカレテいました)、途中検問もありました。無免許だったので、なんか言われると思って心配していたのでしたが、検問していた警官(兵士?)も「あなたが運転して来て良かったですね」と同情してくれたのでした。
エジプトとの国境の町に着いたとき、やっとおじさんが俺を解放してくれました。酒の酔いもさめて、だんだんおとなしくなってきました。酒を飲まないと、こんなにもいい人だったのかと、そのギャップに驚きました。
おじさんは、運転を代わり、国境まで乗せてくれました。そして俺が車を降りたとき、ちょっと寂しそうでした。軍隊ごっこがやれなくなった寂しさだったのかもしれません。
福岡の飲酒運転で子供3人死亡させた事件以来、飲酒運転の報道が多くなっています。酒に酔って包丁を振り回す男は、みんな恐ろしいと思うし、すぐにニュースにもなるのに、今までは、飲酒運転に関してはそれほどニュースにもなりませんでした。でも、酒に酔っ払って凶器を振り回すという点では同じようなものなんですよね。日本人の飲酒運転に対する意識はこれから変わっていくのではないでしょうか。
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