チベット高原を舞台にした映画 『ココシリ』 (2)
『ココシリ』の映画の中で、山岳パトロールの隊員たちは、骨太な男臭いチベット人として描かれていました。俺もメコン源流を探して馬で旅したときも、こんな感じの現地チベット人にお世話になりました。
8月下旬でしたが、標高4200mほどの高原には雪が降り、馬は穴に足を取られないように、ゆっくりと注意深く歩いていました。ふと気がつくと、2人のガイドたちは俺の存在など忘れてしまったように、スタスタと馬を飛ばしていつの間にか視界から消えてしまい、残ったのは馬を引いてくれているガッデさんという男とふたりだけになってしまいました。
近道をするために一端ザナチュ(メコン川源流のチベット名)から外れて湿地帯を突っ切り、再びザナチュに出ると、源流を目指した時は全くの清水だった川の水が、見事な赤茶色の水に変わっていました。一日雨や雪が降っただけで、これだけはっきり水の色が変わってしまうのもすごいものです。
地元の人民政府で、数十年前から草地が減少していて、それが家畜を放牧するのに大変深刻な問題になっているんだと教えられました。草地がはがれて保水能力を失った赤い土は、雪解けの水や雨に打たれて流れだし、ザナチュの色を変えるのです。
いったいどうして草地がはがれていくのか、現地チベット人たちは、地球全体の環境変化についてはあまり知らないようで、不思議がっていました。地球の環境汚染とも関係するのでしょう。近代文明を拒むような厳しい環境のチベット高原ですが、文明は空からもやってくるのです。逃れられる土地はもうこの地球上にはありません。
地元の牧畜民が、こうして草原を失い、非合法と知りながらチベットカモシカの密猟に手を染めるということは、映画でも語られていたことです。
ところで、ガッデさんは、あるところで、馬を止めて、「俺の写真を撮ってくれ」と言いました。記念写真をくれとおねだりしているのかな?と思ったら、彼はこう言ったのです。
「あんたの家族に、俺の写真を見せてくれ。この場所にガッデという男がいて、いっしょにザナチュの源流に行ったと伝えてくれ」
その言い方が、頼もしく清々しかったのです。カッコよかったのです。俺はちょっと恥ずかしくなりました。この40歳ほどの、人民帽を被った大柄なガッデさんを眺め、ほんとにこんな人が世の中にいるんだなぁとうれしくなりました。そしてこんな人に会いたいために旅をしているのだと、あらためて実感したのでした。
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