チベット高原を舞台にした映画 『ココシリ』 (1)
いい映画をDVDで観ました。
『ココシリ (原題「可可西里」)』
監督 ルー・チュァン(陸川)
脚本 ルー・チュァン(陸川)
出演 ドゥォ・ブージェ(多布傑)、チャン・レイ 他
中国青海省でチベットカモシカ(チルー)の密猟者を追う山岳パトロール隊の攻防。実話に基づいた映画です。2004年東京国際映画祭で審査員特別賞を受賞しています。最後の結末で、なんだか割り切れないもやもやしたものが残りますが、それも事実だとすればしかたないことだし、実際、現実というのは、不条理そのものなのでしょう。
100万頭いたチベットカモシカも、この物語のころの1996年には、わずか1万頭に減っていたそうです。彼らに同行取材した北京から来た記者の記事によって、その事実が明かされ、後の保護活動によって3万頭までに回復しました。
過酷で美しい大自然には圧倒されます。その中で、山岳パトロールのチベット人の男たちは、どうしてあれほどまでに密猟者を執拗に追い続けたのでしょうか。報酬もなく、仕事でもないのに、です。それは、この映画の背景にある事情を抜きにしては語れないのではないでしょうか。チベット人と漢民族との確執です。
この映画を観て思い出しました。実は、俺も縁あって青海省には、過去8回ほど行きました。そのうち2回は『メコン河』撮影のためです。映画のロケ地にもなっている歇武、玉樹、メコン源流の雑多にも行っています。そのとき、俺もチベットカモシカの群れに遭遇しました。
それと、チベットマーモットをたくさん草原で見かけましたが、チベット人のガイドは「街から来た漢民族が獲って毛皮を剥いでいく」と憤慨していたのです。穴の前で焚き火をし、反対側の穴から逃げようとするマーモットを捕まえるのです。それらしき漢民族にも出会いましたが、そのときは、それほど深刻な問題だとは思っていませんでした。いや、正直言えば、メコン源流がどこにあるか探すことしか頭になかったのでした。
今から思えば、あのチベット人ガイドの怒り方は尋常じゃありませんでした。チベット人にしてみたら、自分たちの土地が、よそ者に侵略され、荒らされると感じていたのではないかと思います。(その感覚は今も変わらないかもしれませんが) チベットの歴史的背景があります。
密猟者を取り締まり罰金を徴収し、皮を没収するパトロール隊員も、時々そのお金を生活費に当てています。もちろん非合法です。矛盾を抱えながら行っているのは、彼ら自身がよくわかっていることです。でも、ここを守るためには、それしか方法がないのだと記者に訴えます。
一方の、密猟者も、それしか生活する手段がないのです。草原は砂漠化して、牧畜業ができなくなった人たちが、密漁に手を染めていきます。皮剥ぎ職人のおじいさんは言いました。「人間より、カモシカが大事か?」と。この言葉に反論できません。重い問いです。
彼らの行動を高みの見物で覗き「それはいけない」と、何の躊躇もなしに言えるとしたら、よっぽどの幸せ者です。あるいは、おろか者です。こういう状況を作っている原因のひとつは、チルーの毛皮が高値で取引され、毛を加工した織物やショールを買っていた日本人などの外国人でもあったわけです。
青蔵(青海チベット)鉄道が開通し、チベットは、ますます中国化されていきます。生き残った山岳パトロール隊だった人間は、今、どのように感じているのでしょうか。
ところで、このルー・チュアン監督の、すごく気になる記事がありました。
「南京大虐殺」をテーマにした映画で、日本人の俳優募集ー中国
(Yahooニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061223-00000015-rcdc-cn 参照)
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