
【ひとり会議 その十五】 予言者、占い師、霊能者について (これは、ジュセリーノ・ルース氏とC・D・ブロード氏の話以外はフィクションです)
ボゾルグ: 前に、予知夢を見るブラジル人予言者ジュセリーノ・ルースの番組をテレビでやってたね。彼は、911アメリカ同時多発テロ、サリン事件、阪神淡路地震などを予言したらしいよ。でも、うそ臭いなぁ。
さぶじい: これが本当かどうか、私にはわかりませんが、予知夢を見ることは可能性としてあるだろうと思いますな。実際、私が学生のとき、夢に出た試験問題が、翌日の問題と同じだったという経験があります。ただ、これを「予知夢」といえるかどうか、微妙ですが。
ボゾルグ: それは予知夢とは言わないんじゃないの? だって、試験前には山を賭けるのはあたりまえだし、「山を賭けた夢」がたまたま当たったというふうにも考えられるじゃない。
さぶじい: だから、私も、これが「正夢」「予知夢」だったと言うつもりはありませんが。
桃: 無意識が夢に反映されるといわれるわね。そして無意識は、民族、人類のレベルの歴史を背負っていて、個人を越えたところで活動しているらしいじゃない?
さぶじい: 番組の中では、彼の睡眠中の脳波を調べていましたが、夢を見ている時間が長く、しかも覚醒状態に近いところで夢を見ているらしいということでした。無意識をすれすれで意識できる、貴重な人間であるとは言えるようですな。だから夢で、人類の過去は当然としても、過去から続いていく未来に起こるであろう必然的な出来事も見てしまう可能性はあるのではないか、と思います。ユングが言っている「共時性」ということですかな。
ボゾルグ: でも、「日付」「名前」までぴったり当たるのは、ありえないよ。ここが、この予言者を信じられないところなんだよね。
桃: 予知夢を考えるうえで、もうひとつ参考になりそうな話を見つけたわ。茂木健一郎著『生きて死ぬ私』(徳間書店刊)の中に、イギリスの哲学者、C・D・ブロードの「制限バブル説」というものが出てくる。「ブロードの説に従えば、私たちの認識は、本来脳がなければ世界の全体を同時に認識できるのに、生存のために敢えてその一部だけを残して残りを除去してしまう、「引き算」の過程」ということらしい。あくまでも、これは特殊な説であることも付け加えているけど。
さぶじい: つまり、こういうことですかな。宇宙の森羅万象、一瞬のうちにすべて認識できるのが人間の本来の姿であるので、過去や未来を「知る・夢で見る」のもありえると。普通の人は、認識が「制限される」ので、見えないということでしょうか。
桃: あえて見えなく・知らなくなるように脳が進化(?)したとも言えるかもしれないわよ。なぜって、見ない・知らないことで、人生は、むしろ楽しく、おもしろいものになっているから。
さぶじい: そうかもしれないですなぁ。宇宙の森羅万象をすべて知りながら生きるなんて、苦しいだけです。アンドロメダ星雲X惑星に住む生物Yの遺伝子配列なんて知っても、私たちの人生に全く関係ないですからな。
桃: だから、この予言者ジュセリーノ・ルース氏は森羅万象が見えてしまう「不幸な人」なのかもしれないね。
ビーノ: でも、人間て変わっているね。これだけ科学万能の世界になったのに、予知夢とか霊とか占いとか、意外とそういうものを信じているよね。ボクなんか、「食べ物」しか信じてないもん。ボクのほうが、現実主義者ってこと?
さぶじい: そこが人間の不思議なところであり、おもしろいところでもあるんじゃないですかな。
ボゾルグ: 新聞に出てたけど、今の若い人たちの3分の1が、霊の存在を信じていたり、占いは「当たる」と信じているんだろ? 最近霊感商法で被害が増えているのは、こういった占いや霊を扱ったテレビ番組の影響があるんじゃないかって話も書いてあった。
さぶじい: そこは程度問題だと思いますな。私も、あまり信じるほうではありませんが、「参考」程度には信じてもいいのではないかなと思っています。まぁ、遊びですな。あまりにも、すべてのことを「科学的」に割り切ってしまうのも、なんとなく、つまらない。
桃: その通りよ。そもそも「科学的」と信じられていることも、将来は、かならず違った事実がわかってくるんだから、「占い」も「霊」も「科学」も、それほど大差ないのかもよ。50年前に「夢物語」だとバカにされてた世界も、50年たって実現してるじゃない。
ボゾルグ: いや、実害がなかったらかまわないんだけど、最近は、そうでもないだろ? そういうものを信じる風潮、他力本願な風潮ってどうかなぁ。ある意味、精神的な環境汚染だと思うよ。霊感商法は論外としても、たとえば、ある占い師が当たったりすると、その周りに信じる人たちが、集まりだして、いつの間にかその占い師自身、自分が特殊な能力を持っていると勘違いしだす。ずかずかと、人の心に土足で踏み込んできて、人の生き方に口出しするおせっかい。それが「いい」とか「悪い」とかは、あえて言わないけれど。だって、そういうのが好きだという人たちがいるから、ああいう占い師が存在するわけだしさ。
さぶじい: ボゾルグさんがおっしゃることはわかるのですが、欧米では、精神科医が活躍しているそうです。けっきょく、そういう心の処方箋をくれる人が、どんな社会でも、必要なのではないですかな。「科学的」に見える「精神科医」か、「非科学的」に見える「占い師」「霊能者」「シャーマン」という違いはありますが。
桃: そうねぇ。何を信じるかは、その人しだいね。信じるものでしか、その人は癒されないものねぇ。孤独な独裁者や政治家ほど、占いとか、予言者に頼ったりするものらしいわ。
ビーノ: どんなに強くても、どうでもいいものに頼る。それで、プラスマイナスゼロ。人間て、おもしろいね。
ボゾルグ: 友だちがいないんだよ。本音を語れる人が。家族や、「友だち」でさえ、気を許せないライバルだしね。だから、お金を払ってでも、本音を聞いてくれる彼らに頼るしかない。まぁ、この程度なら、俺も許せるんだけど、最近は、その「弱み」に付け込んで、商売にしようというヤツが増えていることに怒りを感じるよ。
桃: でも、ボゾルグが「非科学的」と言っている予言者や占い師や霊能力者を見ても、「嘘」をついていると思えないんだけど。
ボゾルグ: そりゃぁそうでしょ。彼ら(彼女ら)の内面では、「本当」のことだと思うよ。未来の大事件や、他人の将来や、霊が実際見えるんだろうな。だから、彼ら(彼女ら)には嘘という自覚はないはずだよ。むしろ「下々の人間」に、良いことを教えてあげているという感覚なんじゃないの。テレビに映ってる彼ら(彼女ら)の目、見てごらんよ。とても「嘘でしょ?」なんていえない、真剣な目をしてるよ。
ビーノ: それって、自分自身を騙すことができる優秀な詐欺師といっしょなの?
ボゾルグ: こらっ! ビーノ、それは・・・。
桃: ビーノ、ダメでしょ。すみません、占いや霊を信じているみなさん。こんな犬が言っていることなので、気にしないでください。
ビーノ: (こんな犬?) グルグルグル・・・。
ボゾルグ: とにかく、俺は、予知夢も霊も見えない普通の人間で良かった。自分の未来や先祖の霊なんか見えたら、疲れてしかたなかったよな。疲れるだけならまだしも、それを黙っていたら気が変になりそう。
ビーノ: あぁ、だから、あの人たちは、つい他人にしゃべってしまうのか。その重荷に耐えられなくなって。
ボゾルグ: それと、占い師が、自分自身の「未来」をしゃべらないのは、やっぱり、「未来」がわかったら、人生つまらないって、本能的にわかっているからかもね。
さぶじい: 自分の「未来」や「心」はわからないんです。「予言者」「占い師」「霊能者」は、あくまでも「他人」の心に処方箋を書くことができる人たちなんだと思いますよ。彼ら自身は、別な「予言者」「占い師」「霊能者」に頼っているかも知れませんよ。


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