映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』を観て 2
ちょっと時間がたってしまいましたが、前回この映画について書いた記事はこちらです。
「映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』を観て 1 (2008/05/26)」
映画の中で、アルゼンチンからチリに抜けて、アンデスの山越えのシーンがありました。
南米では1月は夏なのに、高さがあるからでしょう、雪が積もった危険な道です。
バイクを押しながら雪道を進むふたりのシーンを見たとき、俺は、ある旅を思い出しました。
それは、中国新疆のタシュクルガンからカシュガルまで、カラコルムハイウェーを、12日間ほどかけてロバ車で旅をしたときのことです。出発して2日目、4000m以上の峠を越えることになりました。
峠手前に1軒、道路補修のための小屋があったのですが、泊まることを拒否され、しかたなく歩き始め、疲れたので寝袋に入り、野原に横になっていると、顔に冷たいものが当たりました。なんだろうと、懐中電灯で照らすと、空から降ってくる無数の雪でした。このまま寝ていたら死んでしまうと思ったので、1晩中歩き続けたのでした。
そのとき、高山病もあったのでしょう。朦朧とした意識の中で、俺は、ロバ(名前は「ドン」。ドンキーの「ドン」と、鈍足の「どん」をかけた名前です)と、一晩中日本語で会話をしていたような気がするのです。そんな馬鹿なと思うのですが。しかも、普段は言うことをきかない頑固者なのに、この夜は歩き続けてくれたのでした。
「こんな目に遭わせて申しわけないね」
「いいよ、気にしなくて」
「疲れたろ?」
「ううん、まだだいじょうぶ」
このとき、「ドン」も、生き物の本能として、ここで歩き続けなければ死んでしまうと感じたのかもしれません。
空が白みかけたとき、ようやく峠を越し、広々とした草原に、キルギス族のユルト(天幕住居)から煙が立ち昇っているのが見え、あぁ、俺は生きていると思いました。(↑の写真) そして、すぐ、道路補修の小屋で朝食を作っていたウイグル族に声をかけられ、部屋に招き入れられたのです。
そのとき食べた水餃子のおいしさと、ストーブの暖かさは、一生忘れられないものになりました。ある意味、「死と再生」を体験し、そこが俺にとっての桃源郷だったかもしれません。
チェ・ゲバラは、「国境を越えるとき、胸をよぎるのは、いつも、2つの思いです。背にする国への郷愁と、新たな国へ入る興奮です」と、母親への手紙に書きます。
たしかに、このふたつを思います。それは、過去から未来へ、既知のものから未知のものへの精神的な移動。それこそが旅と呼べるものかもしれません。
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