あるイ族村の涙ぐましい観光化計画
元陽の棚田が有名になり、映画『雲南の少女 ルオマの初恋』の主人公もハニ族少女だったし、棚田を作る民として「ハニ族」の名前が目立っています。
でも、元陽の棚田を作っているのは、なにもハニ族ばかりではありません。イ族の人たちもいます。
元陽のあるイ族村を訪ねたとき、こんな計画を聞かされました。
その前に、チンコウというハニ族村について触れておきます。チンコウは、元陽の新街鎮から7kmほど南に下ったところにあるハニ族の観光村です。入村料を払って「伝統的なハニ文化」を体験できる村として、人気になりました。
だから、元陽では、チンコウといえば、村興しに成功した(外国人から見たら、ちょっと違うかもしれませんが)と、うらやましがられているようでした。
なので、そのイ族村の人たちも、チンコウと同じに、イ族観光村にしたいのだといったのです。観光資源としては、棚田の風景と、池がある。池を、釣り堀にして、そこで釣 った魚を料理して食べさせる食堂を開業する。そこまでは、「いいかもしれない」と俺も思いました。ところが、「それと、カラオケを作り、村の若者たち にイ族の歌と踊りを教え、お客の前で披露するんです」と続けました。
「こんな田舎の村にカラオケ? そんなものを作ったら、外国人は、来なくなりますよ。俺たちは、今のような自然のままがいいし、唯一あったらいいなと 思うのは、宿泊できる、民宿のようなものだけです」と、いいました。
でも、彼らは、外国人など相手にしません。20年前は、外国人が観光地でお金を落とし ていましたが、今は、金持ちになった中国人のほうが圧倒的に数も多いし、金使いも派手なのです。だから、カラオケ。カラオケは観光地に欠かせない。彼らは、そう信じているようでした。
「何もないからこそ良いのです」などと彼らに言ってみたところで、理解してくれることはないでしょう。「これからは、『物』じゃなく『心』の時代」などと言っている日本でさえ、難しいんだから。空間そのものが価値のあることなのに、どしても「物」を作ろうとする発想に陥ってしまうのは、日本人もイ族も同じ。
入場を取って「観光村」というテーマパークになると、「ここはこう見るべき」「ここはこれを体験すべき」と、強制されるような感じがして好きではありません。ただ、何か「物」を作らないと、お金が村に入ることはない、というのも現実。
ただ、俺は、ばかばかしい計画だと言って、笑うことはできませんでした。若い人たちは、ほとんどみんな外に出稼ぎに出ています。村に仕事がないのです。このままでは、い けない、なんとかしなければ、という思いがあります。しかも、どうしてハニ族だけいい思いをするんだという、異民族間の嫉妬心のようなものもあったでしょう。
せっぱつまった彼らの経済状態が、ちらちらと見えて しまう。なんとしてでも、この棚田ブームに乗っかり、村を豊かにしたいという、村人たちの熱意だけは、悲しくなるほど伝わってくるのでした。
2年半、元陽には行っていないので、その後、この村の観光化がどうなったはわかりません。
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