« イ族の祭りと葬式 | トップページ | 埼玉県寄居玉淀水天宮祭花火大会 »

2008/07/31

あるイ族村の涙ぐましい観光化計画

080731
元陽の棚田が有名になり、映画『雲南の少女 ルオマの初恋』の主人公もハニ族少女だったし、棚田を作る民として「ハニ族」の名前が目立っています。

でも、元陽の棚田を作っているのは、なにもハニ族ばかりではありません。イ族の人たちもいます。

元陽のあるイ族村を訪ねたとき、こんな計画を聞かされました。

その前に、チンコウというハニ族村について触れておきます。チンコウは、元陽の新街鎮から7kmほど南に下ったところにあるハニ族の観光村です。入村料を払って「伝統的なハニ文化」を体験できる村として、人気になりました。

だから、元陽では、チンコウといえば、村興しに成功した(外国人から見たら、ちょっと違うかもしれませんが)と、うらやましがられているようでした。

なので、そのイ族村の人たちも、チンコウと同じに、イ族観光村にしたいのだといったのです。観光資源としては、棚田の風景と、池がある。池を、釣り堀にして、そこで釣 った魚を料理して食べさせる食堂を開業する。そこまでは、「いいかもしれない」と俺も思いました。ところが、「それと、カラオケを作り、村の若者たち にイ族の歌と踊りを教え、お客の前で披露するんです」と続けました。

「こんな田舎の村にカラオケ? そんなものを作ったら、外国人は、来なくなりますよ。俺たちは、今のような自然のままがいいし、唯一あったらいいなと 思うのは、宿泊できる、民宿のようなものだけです」と、いいました。

でも、彼らは、外国人など相手にしません。20年前は、外国人が観光地でお金を落とし ていましたが、今は、金持ちになった中国人のほうが圧倒的に数も多いし、金使いも派手なのです。だから、カラオケ。カラオケは観光地に欠かせない。彼らは、そう信じているようでした。

「何もないからこそ良いのです」などと彼らに言ってみたところで、理解してくれることはないでしょう。「これからは、『物』じゃなく『心』の時代」などと言っている日本でさえ、難しいんだから。空間そのものが価値のあることなのに、どしても「物」を作ろうとする発想に陥ってしまうのは、日本人もイ族も同じ。

入場を取って「観光村」というテーマパークになると、「ここはこう見るべき」「ここはこれを体験すべき」と、強制されるような感じがして好きではありません。ただ、何か「物」を作らないと、お金が村に入ることはない、というのも現実。

ただ、俺は、ばかばかしい計画だと言って、笑うことはできませんでした。若い人たちは、ほとんどみんな外に出稼ぎに出ています。村に仕事がないのです。このままでは、い けない、なんとかしなければ、という思いがあります。しかも、どうしてハニ族だけいい思いをするんだという、異民族間の嫉妬心のようなものもあったでしょう。

せっぱつまった彼らの経済状態が、ちらちらと見えて しまう。なんとしてでも、この棚田ブームに乗っかり、村を豊かにしたいという、村人たちの熱意だけは、悲しくなるほど伝わってくるのでした。

2年半、元陽には行っていないので、その後、この村の観光化がどうなったはわかりません。


Banner_01にほんブログ村 写真ブログ 風景写真へ

|

« イ族の祭りと葬式 | トップページ | 埼玉県寄居玉淀水天宮祭花火大会 »

コメント

伝統的な文化をどういうふうにして次世代につなげていくのかは、難しい問題ですよね。
俺自身のことを考えると、それがよくわかります。
ただ、伝統的なものというのは、その土地の人たちの知恵が詰まったやりかたです。それを捨ててしまうのは、もったいないと、個人的には思っています。
でも、伝統的なものを捨てられる人というのは、それよりももっと大きな「未来」が見えるからだと、良い方に取るしかないかなと、思うときもあります。
実際問題、長い目で見たとき、伝統的なものにだけとらわれていては、前に進まないこともあるのは感じますし。

ただ、問題は、「変化のスピード」なのではないかなと思います。ゆっくり変わっていくことは、むしろ自然で当然のことでしょう。だから、「大資本による開発」のようなものは、短い時間で、しかも暴力的に激変させてしまうとしたら、間違っているかもしれません。
ハニ族もイ族も、自分たちの意思で、少しづつ伝統を捨てていく(それはある意味、別な「伝統」の始まりでもあるわけですが)のは、しかたない、いや、自然なことだと思いますね。

投稿: あおやぎ | 2008/08/03 11:24

イ族のその村の観光計画はまだ実現していないと思います。
しかしその一方で、昆明で世界博公園を運営する会社が元陽の観光開発に参加する意向だとの記事がありました。
もし大資本による商業開発が行われたなら、今でも色濃く残る農業生産を軸にした伝統文化が破壊されそうで怖いです。
また青柳さんも触れられていますが、いま若者はほとんど出稼ぎに出ているので、村は伝統的な生活形態から現代的なものへの変化がすでに顕著になってきています。
以前ハニ族の有名なシャーマンである朱小和さんと話をした時、今の若者は村から出て都市に行きたがる人が多く、自分たちの文化には関心の無い人ばかりで、このままでは自分たちの伝統が失われてしまう。私の夢はハニ語だけで教える小学校を作って、ハニ族の文化を子供に伝える事だ、とおっしゃってたのを思い出します。
イ族ではなくハニ族の話をしてすみませんでした。でもイ族の年配の方も同じように嘆いているのを知っています。

投稿: 季節風 | 2008/07/31 01:04

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« イ族の祭りと葬式 | トップページ | 埼玉県寄居玉淀水天宮祭花火大会 »