【ひとり会議 その十八】 六本木のビルの中国人?
【ひとり会議 その十八】 六本木のビルの中国人?
ボゾルグ: この前、六本木の、あるビルへ初めて行った。俺には似合わないオシャレな場所なので、めったに出かけないエリアでもあるけどね。
桃: そうね。わかるわ。
ボゾルグ: それはともかく、ビルの中には、簡単な食事ができる軽食レストランが並んでいる一角があった。その店のひとつに、「刀削麺(包丁で削って麺にした中国の麺)」の店があって、おねえちゃんが、「トウショウメン、イカカテスカ~」って、お客さんを呼び込んでいた。それが、明らかに中国人ふうの発音だったんだよね。
ビーノ: それが何か? 中国人、働いているんじゃないの? 今じゃぁ珍しくないし。
ボゾルグ: そうなんだ。でも、それを聞いて、とっさに思ったことは、彼女は、ほんとうは中国人ではなくて、純粋な日本人で、中国人ふうの発音をわざとやっているんじゃないかということ。
桃: どうしてそんなことを?
ボゾルグ: わざわざ確かめようとは思わず、素通りしたけどね。別に、それでもいいんだけど。非難するんじゃないよ。ただ、俺がとっさにそう思ったのは、それなりに訳があるんだな。ある意味、「今の東京だから」かもしれない。
ビーノ: 聞いてあげるよ。どうぞ。
ボゾルグ: 以前、外国人が経営する飲食店で聞いた話だけど、日本に住み始めて10数年の主人は、日本語がぺらぺらだった。彼が、テレビに出たことがあるそうだ。もちろん日本のテレビにね。彼がテレビに出るとき、日本語がうますぎると、もっと下手にしゃべるように、ディレクターに要求されたって。そのほうが、外国人ぽくてウケるからっていう理由なんだな。
桃: そういえば、テレビ番組で有名になったナイジェリア人タレントのボビー・オロゴン(最近は格闘家)も、じつは日本語がとてもじょうずだという疑惑(?)があるわね。つまり、「下手な日本語をあやつる外国人」を演じている(演じさせられている)というもの。これも、もちろん確かめたわけじゃないけど、ありえる話でしょ。
ボゾルグ: そう。それも聞いたことある。それで、六本木のビルの話に戻ると、でも、なんで、そんなことをする必要があるのか?と、思うでしょ? 一昔前、東京にあるエスニック料理は、はっきりいって美味しくなかった。それは、俺が旅先で覚えてきた味を再現して出してくれる店ではなくて、日本人の舌に合わせた味だったので、満足できなかった。
桃: そうね。「フランスパン」とか言いながら、「フ」みたいな、ふにゃふにゃしたパンがあったもんねぇ。
ビーノ: 今もあるよ。ボク、歯ごたえがないパンなんか、まずくて食べられないよ。
桃: あんたは、なんでも食べちゃうんでしょ?
ボゾルグ: ところが、いまや、外国人がたくさん住んでいる国際都市東京。エスニック料理店も、日本人ではなくて、ほんとの外国出身者が作っている店が増えてきたので、本格的な味に変わってきた。だから、俺はとっさに思った。日本人が作る「刀削麺」よりは、中国人が作った「刀削麺」がうまいに違いないとね。もちろん、その女性が作っているのではなかったけど。中国ふうの雰囲気を強く出したほうが、今は、「本格派」をイメージするんじゃないかなぁと。
桃: まぁ、それはボゾルグ、あんたの思い込みだけどね。そんなに手の込んだことしなくてもいいんじゃない。本物の中国人を雇って使えば問題ないよ。日本語を下手にしゃべる中国人を。
ボゾルグ: じょうずだと意味がない。まぁ、たまたま中国人を雇えなくて、しかたなく、日本人が中国人を演じさせられているのかも。
桃: そこまでするかな? 考えすぎなんじゃない?
ボゾルグ: そういう可能性もあるって話さ。
桃: 可能性を言ってしまったら、なんでも可能性はあるわ。
ビーノ: まぁまぁ、桃ちゃん。そんなに突っ込まないで。ボゾルグがそう考えてしまうようなところが、今の東京という国際都市なんだ、ということを言いたいんじゃないの?
ボゾルグ: そう。そう。俺が言いたかったのはそこなんだよ、ビーノ。でも、俺、馬鹿にされてるような気がする。
ビーノ: ボゾルグ、そんなことないよ。
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