近々未来予想ショートストーリー 『暑がりません、秋までは』
中国の広西チワン族自治区と貴州省へ行ってきます。そのためブログ、ツイッターはしばらく休みです。コメントもお返しできません。ご了承ください。なおブログは、6月10日ころ再開します。
その代わりというのもなんですが、ショートストーリーをひとつ書いて出ます。
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『暑がりません、秋までは』 (近々未来予想ショートストーリー)
2011年7月28日。
その日、午前中から30度を越え、午後2時には38度の猛暑日になった。
扇風機では我慢できず俺はエアコンをつけた。天国からの風だ。これで生き返ると思った。
そのとき表から声がした。
「この家の人、出てきなさい!」
玄関の戸を開けると、緑色の腕章を付けた10数人のおじさん、おばさんが立っていて、ぎょっとした。なぜぎょっとしたかというと、おじさんたちは海パン、おばさんたちはビキニだったからだ。
そのうちのひとり、拡声器を持ったメガネをかけたおばさんが、「エアコンは切ってください!」と俺に向かって叫んだ。
「なんですか、あなたたちは?」
「私たちは、節電組の者です。みんなが節電に励んでいるとき、あなたはなんですか? エアコンなど使って。恥ずかしくないんですか?」
額に青筋を立てたおじさんは、
「節電しない人は非国民ですよ、あなた」
改めてよく見たら、彼らは幟を掲げていて、それには、
「暑がりません、秋までは」 「エアコンは国民の敵だ」
などと書いてある。
「私たち節電組は、住宅街を回って、節電の啓蒙をしているんです」
「とくにエアコンを使っている人たちに。室外機が動いていれば、使っているのがすぐわかりますよ」
そのとき、ひとりの若い女性が通りかかった。そして彼女は節電組のおばさんたちに捕まった。
「あなたスカートの丈が長すぎます。ダメじゃないですか。これじゃぁ暑すぎるでしょ」
「自己批判しなさい。『私は長いスカートを履いた愚か者です』と」
若い女性は、「いやです」と答えた。すると、
おばさんたちはスカートを無理やり脱がせてしまった。スカートを脱がされた女性は、泣きながら走っていった。
「ひどくないですか? そこまでやらなくても」と俺は抗議した。
「何を言っているんですか、この非常時に。あなたたちのような人がいるからダメなんです」とメガネのおばさんはいった。
「あなたのズボンも脱がしますよ」と青筋立てたおじさんはいった。
彼らは額から汗を滴らせながらも、顔には自信がみなぎっていた。反論できるような雰囲気ではなかった。いや正直な話、俺はそのとき恐怖を感じた。それで俺は、
「わかりました。すぐ消します」
といって家の中に入りエアコンを切った。カーテンの陰から見ると、表の集団は、みんな満足げな顔をして、3丁目の方へ歩いていった。
その夜、俺は自己嫌悪に陥った。なんて情けないやつなんだろう、俺は。あんなやつらに屈してしまうとは。
それから俺はネットでこんな商品が闇で売られているのを知った。勇気がわいてきた。すぐに注文した。
「音がしない室外機。これで思う存分エアコンを使うことができる。同士よ、立ち上がれ! 反節電レジスタンス一同」
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