近々未来予想ショートストーリー 「犬の惑星 The Planet Of The Dogs」
今回は「近々未来」ではないかもしれません。遠い未来の話です。くだらないパロディSFですが読んでみてください。
☆☆☆
私の乗った宇宙船は故障し、知らない惑星に不時着した。
そこは犬が支配する惑星だった。
トウモロコシ畑で犬軍団に捕らえられた私は、この惑星の下等動物、「人」といっしょに町に連れて行かれ、檻に入れられた。そこは「ペットショップ」だった。「人」は見かけは私と同じ人間だったが言葉はしゃべらなかった。
私は様子をみた。
ペットショップの店員は、
「ほら、おすわり」
といった。わからないふりをした。すると、「こいつは、オバカそうだなぁ」と店員の犬は私を指差して笑った。すると店長らしい犬が「まぁ、オバカな人が好きな犬もいるから、殺処分にはまわさないで置いておくことにしよう」と言った。「最近、政府の取り締まりがきついからなぁ。バカすぎる人と、賢すぎる人は、すぐに殺処分だ」
私は他の人と同じように黙っていることにした。『猿の惑星:創世記』という21世紀に公開された大昔の映画を観たことがあったが、知能があることを知られると、逆に危険があることをわかったからだ。
ある日、ぺっトショップに夫婦連れの犬がやってきた。人を買いに来たのだった。
こんな檻にずっと閉じ込められているのは嫌なので、この夫婦に買われていくことにした。
奥さんは「おいで」と言って、お尻を突き出した。私はすかさず奥さんのお尻の匂いを嗅いで、ゴロンと仰向けになってお腹を見せた。
奥さんは「いい子ねぇ」と言って、おやつの豚耳の皮を差し出した。私はきちんとお座りをして待った。
旦那さんは「こいつ、賢いぞ」といった。「よし!」と言われて私は豚耳の皮をクチャクチャと噛んだ。
「この子にしましょうよ」と奥さんは言い、旦那さんも「そうしよう」と言った。
こうして私はこの夫婦に飼われることになった。運良く彼らは、「愛人家」で、私をとても可愛がってくれた。私に「わさお」という名前をつけた。
ただひとつ恥ずかしかったのは、男の私にピンク色でふりふりの洋服を着せることだった。もっとも、私を知っている地球人はここには誰もいないし、意外とふりふりの洋服も、慣れてくるとまんざら嫌いではなくなっていった。
1週間ほどして、私は言葉を話してみようかと思った。彼らだったら、言葉を話しても、危険な動物ではないことを理解してくれるのではないか。少なくとも、どこかの研究所や、テレビ番組に売ったりはしないだろうし、政府に通報したりしないだろう。
夕飯を食べた後、「ありがとうございます」と言ってみた。突然しゃべった人の姿に驚いている。
「わ、わさお、しゃべったわ!!」
「私は言葉がわかるんです」
二人とも、「ワンワン」と鳴きだし、興奮し、舌をだらりと下げて、ハァハァいっていた。旦那さんは片足を上げて、ソファーにオシッコをかけてしまい、部屋中をくるくる回り始めた。奥さんは床の上にウンチをしてしまった。言葉をしゃべる人を見たのははじめてだからしかたなかった。頭が混乱しているようだった。
でも、思ったとおり、二人は分別のある犬だった。それで、冷静になってくると、私の話を真面目に聞いてくれた。
私が「地球」という惑星から宇宙船でやってきたことを話した。ふたりは「地球」の話に興味を持ったようだった。地球では人が言葉をしゃべること。人と犬が仲良く暮らしていること。でも、立場がこことは逆で、人が犬の面倒をみていること。
夫婦は教えてくれた。
政府は最近、人が増えすぎたといって、簡単に殺処分するようになったことに、この夫婦も反対しているのだという。獰猛だったり、賢すぎる人は、とくにすぐ捕らえられる。それに反対する犬たちで「人を保護しよう」という運動も起こっている。しかし政府は弾圧を強めている。そしてなぜか「アユビス」に立ち入ることを禁止するようになったらしい。
「アユビス?」
この町の郊外、「アユビス」という地区は、犬たちにとっての聖地であり、また同時にタブーの地でもあるらしい。そこには「犬の神の像がある」と信じられている。しかしそれは都市伝説のようなものだった。「アユビス」へ行って戻ってきた犬はいないからだ。
「このまま政府の取締りが厳しくなっていけば、いずれ、わさおも連れていかれるかもしれない」
「そうなる前に逃げて、わさお」
私は夫婦にお礼を言い、別れを告げて「アユビス」へ向かった。そこへ行けば、何かがわかるような気がしたからだ。
警察犬の追跡をかわし、ジャングルをかき分けてたどり着いた広場は、見たことのないような高層ビルに囲まれていた。しかしビルはすでに廃墟のようだった。
「ここがアユビスか・・・」
広場の真ん中に高さ2mほどの銅像のようなものが建っていた。私はその銅像に近づいた。
「これが犬の神か」
銅像の隣に立っていた碑文にはこうあった。
「我ら犬は、人への恩を忘れない。23世紀になって、何でも機械に頼るようになり、頭を使わなくなった人は、脳が退化し、言葉もしゃべらなくなった。もはやこの地球の支配者の座は人から犬に移った。しかし我々は今までの恩を忘れてはいけない。人と犬は互いに助けあってきた。だからこれからも我々は人を保護していかねばならない。」
その銅像はさび付いていたが、よく見ると犬の姿をしていた。そして台座には文字が見えた。
「忠犬ハチ公」
と。そして地面に落ちていたプレートには、「AYUBIHS]の文字が。
「アユビス・・・後ろから読むと・・・」
私はすべてを理解したのだった。
ビル壁面の巨大な「109」の文字が夕陽に反射して不気味に光っていた。
☆☆☆
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コメント
Mr.SCHOPさん
ラストシーンの自由の女神は衝撃的でした。このパロディを思いついたのも、このラストシーンがあったからです。
今度封切りされる新しい『猿の惑星:創世記』の予告編を見て、いつか書いてみたいと思っていた『犬の惑星』を書いてみました。
もしかしたら『猿の惑星』同様に「続編」が思い浮かぶかもしれません。
投稿: あおやぎ | 2011/09/19 22:53
最後まで読んでしまったー(^^)
猿の惑星はテレビで何度も見たけどラスト
シーンの自由の女神はやっぱり衝撃的でした。
あゆびすも同じく衝撃的ですねー。
面白かったなあ。
投稿: Mr.SCHOP | 2011/09/19 19:45