ヨーロッパと日本のヒッチハイク事情 (3) イカれたアメリカ人おじさんとの危ないドライブ
外国のヒッチハイクで一番強烈だったのは、イスラエルでの出来事でした。
イスラエルは若い軍人もヒッチで移動するなど、ヒッチは一般的です。
死海のほとりで野宿した翌朝(↑写真)、道路に出たら、ちょうど車がやってきたので手を挙げました。
車が止まり、乗り込んで俺は「あっ、まずい」と思いました。ダッシュボードには、ビールの小瓶が5、6本並んでいたのです。空になったビール瓶でした。
ドライバーのおじさんはもうかなり酔っていました。エジプトへ抜けようとしていたので、「エラートまで」と言ったのですが、おじさんはろれつの回らない口で、「あんたが行きたいところ、どこへでも」と英語で言ったのでした。
おじさんはレンタカーで旅行しているアメリカ人でした。イスラエルの死海ほとりの道は、幅も広く、車も少ないので、なんとかこんなおじさんでも運転できたのです。
しばらく走ったとき「あんた、運転代わってくれ」と命令口調で言い出しました。「免許証持ってません」と言うと「いらない。大丈夫」と言うのです。もうおじさんは酔いがまわってべろべろだし、砂漠の真ん中で、人家もなく、これは俺が運転したほうがいいかなと思い、代わることにしました。
もちろん、俺は外国で車を運転したのも初めてだし、左ハンドルも初めてでした。おっかなびっくりで始めた運転でしたが、慣れると、気持ちよくなりました。こんなに走りやすい道は日本にはなかったからです。
ある村を通過したとき、ヒッチハイカーがいました。おじさんは「乗せろ」と命令しました。俺は車を止めて彼らを乗せました。彼らは俺に「どこまで行くんですか?」と聞いたので、「この人に聞いてくれ」と俺は、おじさんの方を向きました。彼らが怪訝な顔をしたので「車はこの人のもので、俺はヒッチハイカーなんだ」と言ったら、ますますわけがわからないといった顔をしました。ヒッチハイカーがヒッチハイカーを乗せるなんて、普通ないですからね。
それで不審に思われたのか、彼らは1kmほど走ったら「ここでいいから」と言って降りてしまいました。
その後も、走行中、追い抜くとき前方の長距離トラックの後ろに接触してしまったり、いろいろありました。検問もありました。無免許だったので、何か言われると思って心配していたのでしたが、検問していた警官(兵士?)も「あなたが運転して来て良かったですね」と同情してくれたのでした。接触事故についても何のお咎めもありませんでした。
渓谷では軍隊ごっこをするおじさんでした。俺に水に飛び込むように命令したり、水に入った重いおじさんを引き上げるように命令されたり。完全にイカれていました。
エジプトとの国境の町に着いたとき、やっとおじさんが俺を解放してくれました。酒の酔いもさめて、だんだんおとなしくなってきました。酒を飲まないと、こんなにもいい人だったのかと、そのギャップに驚きました。
おじさんは、運転を代わり、国境まで乗せてくれました。そして俺が車を降りたとき、ちょっと寂しそうでした。軍隊ごっこがやれなくなった寂しさだったのかもしれません。
嫌ならすぐ、車を降りて、おじさんにサソナラすればよかったのです。それをしなかったということは、俺もまんざらイカれたおじさんが嫌いではなく、イカれた行動がとても魅力的だったのではないでしょうか。
「こんな人も世の中にはいるんだなぁ」
自分の常識が音をたてて壊れていく気持よさというものもあるんですよね。これも旅ならではの体験ということでしょうか。
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