映画 『ザ・ロード THE ROAD』 を観て わずか数秒だけ出てくる犬が大きな意味を持つ
日本では2010年に公開されたアメリカ映画『ザ・ロード』。原作は2007年度ピューリッツァー賞を受賞したコーマック・マッカーシーの小説『ザ・ロード』。
最初からぐっと引き込まれました。独特の色彩、空気感、控えめな音楽。
はっきり言って暗く重い映画です。気楽に「楽しめる映画」ではないかもしれません。
どうしてこんな地球になってしまったのか、説明はありません。天変地異なのか核戦争なのか、ともかく環境の激変で生き物が減っていくアメリカが舞台です。生き残った父子が食べ者を求めて南へ旅を続けます。
説明がないことがこの映画の人間ドラマとしての価値を高めている一因でもあるのではないかと思います。
この映画を3.11以前に観ていたらまた違った印象を持ったのかもしれません。もちろん状況も場所も違いますが、俺は3.11で地震津波で生きのびた人たちの姿とダブって見えました。
世界が崩壊し、無政府状態になったとき、人間がどうなるか。一方では武装し、人間を食料とする「悪しき者」。でも、一方では、それでも良心を持ち「善き者」であろうとする人たち。人間は食べず、人間の尊厳を忘れず生きていこうとする人々です。
父親は少年に、心に宿る「火」、それを運んでいるのが「善き者」で、俺たちもずっと「善き者」であり続けるのだと教えます。
「善き者」であろうとしますが、だんだんと父親は「悪しき者」に近づいていくようでした。いや、息子を守ろうとするとどうしてもそうなっていかざるをえないという厳しい現実もあります。「善き者」と「悪しき者」、両者を隔てているはっきりした壁はありません。
途中で出会った老人も、息子を食べてしまったようで、そういう意味では「悪しき者」なのかもしれませんが、どうなんでしょうか。息子は老人にも食べ物を分けてあげます。
少年は「悪しき者」に近づく父親に反発し、逆に諭します。困っている人を助けようとします。子どもの感覚の方がまともであることに、未来の光を感じるのでした。
結局父親は病気で死んでしまいます。その直後、ある男と出会います。
男は少年に「いっしょに来ないか?」と誘います。でも少年は疑います。
「善き者なの? 善き者の証拠は? 子どもはいる? 火を運んでいる?」
男には家族がありました。そのラストシーンが良かった。
少年が彼らに近づきます。男とその妻、息子と娘。そして最後に犬がいることを知ります。俺もここでグッときました。犬がいることで、急に空気が和み、一気にこの男が信じられるようになったのです。少年は彼らといっしょに行くことを決意します。新しい家族です。
暗くて重い映画だと思いながら観ていましたが、最後は明るさを感じました。この犬連れの家族との出会いで少年は心に宿る「火」を運び続けることができるだろうという希望を感じたのでした。
それにしてもこの映画で、わずか数秒だけ出てくる犬が、これだけ大きな意味を持つとは思いませんでした。
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コメント
abcさん
コメントありがとうございます。
数年前に観た映画なので、あまり細かいことは覚えていません。
ただ、最期に犬が出てきたとき、犬を飼うくらいの家族は、ある程度信用できるのではないかと思った記憶はあります。
それは犬がいることで、「普通感」が出るからです。私の経験上、旅先で暗闇から人が出てきてびっくりすることがありましたが、そのとき犬を連れていたら、大丈夫という感覚があります。何か悪いことをしようとする人間が、犬連れでは足枷になってしまうと思うからです。
犬連れの空き巣、犬連れの銀行強盗、犬連れのテロリスト・ ・ ・、基本、これはないのではないかなぁと。
投稿: あおやぎ | 2016/09/12 18:37
最後の犬はシェルターに隠れているときに上を通っていた人たちだと思います
なのでずっと追っていたというのは事実だと思います
もしそうであれば彼らは弾を所持しているが殺さなかったということで善人であることは間違いないと思います
投稿: abc | 2016/09/10 21:58