レバ刺し禁止カウントダウンで“特需”に沸く焼肉店
(週プレNEWS http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20120627-00000225-playboyz-soci)
とうとうレバ刺しが店から姿を消します。7月1日以降レバ刺しを提供すると「2年以下の懲役か200万円以下の罰金」だそうです。かなり厳しい罰則です。
「安全」のためという大義名分はわかるのですが、いきなりの全面禁止。行き過ぎではないんでしょうか? もう少し「自己責任」を認めてほしい。俺たちはバカじゃないんだから。
☆☆☆
ガンとマックは、拳銃を強く握りしめ、タレコミがあった部屋のドアを足でけった。
「動くな! LSPだ!」
中では男と女がテーブルを囲んで、例の物を口にしているところだった。ふいを突かれた彼らの口からは、赤い色のプルンプルンしたものが垂れ下がっている。ガンとマックがふたりに銃口を向ける。
「飲み込むなよ」
とガンは言って、ふたりの口から垂れ下がったそれを引き抜いた。そしてポケットから試薬を取り出した。
「いいか、この試薬かけて青色になったら正真正銘のレバ刺しだからな」
レバ刺しが禁止されたのは2012年。その数年後「レバ刺し取締法」ができて、提供者だけではなく、食べた本人も処罰の対象になった。
そして食べるのを手伝った人間も「レバ刺し幇助」の罪に問われる厳しいものだ。たとえば、焼肉店で、レバ焼きを頼んだ客に生レバーを出したら「レバ刺し幇助」になる。客がそれを焼かずに生で食べてしまうという事件が続発した。だから店では、レバー焼の注文を受けたら厨房であらかじめ焼いてから出すしかなくなった。
ガンとマックは警視庁の特殊部隊「LSP」に所属している。違法となったレバ刺しを取り締まる部署、通称「レバ刺しポリス Leba Sashi Police」だ。
禁止になった当初から、レバ刺しの食感や味をまねた擬似レバ刺しが出回っていた。「マンナンレバー」だ。こちらは「脱法レバ刺し」と呼ばれている。
悪人たちは、「脱法レバ刺し」では満足できなかった。本物を食べるために地下にもぐったのである。危機感をつのらせた当局は、取締りを強化した。
その背景には、2012年レバ刺しの提供が禁止されたころと同時期、「脱法ハーブ」というものが出回っていたが、こちらは明らかに人体に危険を及ぼすことがわかりながら、野放し状態であった。その後取締りが始まると、地下にもぐった。そのことに対する批判があいついだ。それで当局は、先手を打って、危険なレバ刺しを、今の段階で根絶することを世間に向けてアピールする意味あいもあったのである。
試薬は青を示していた。本物のレバ刺しだ。男と女は言い逃れができなかった。
「許してください。私、貧血ぎみで、医者から鉄分を取りなさいといわれていたんです。だからつい出来心で・・・」
と女は泣きながら訴えた。ガンは青色に変わったレバ刺しを、女の目の前に突きつけながら言った。
「そんな言い訳が通用すると思うのか? 100gあたりに含まれる鉄分の量では、ヒジキとキクラゲのほうが上なんだ。「食品摂取法」に書いてあるだろ? 鉄分はヒジキとキクラゲで採れと。でも、ヒジキの場合は、体に吸収されにくいので、ビタミンCや動物性タンパク質を含む食品と組み合わせて採る必要があるんだがな。「食品摂取法」に違反しても懲役5年だ。ましてやレバ刺しで鉄分補給だと? 重罪だぞ」
テーブルには天秤が置かれ、片方の皿には錘が、片方の皿にはレバ刺しの切り身が乗っていた。冷蔵庫の中からは、20gに小分けされた冷凍レバ刺しの入ったビニール袋が大量に見つかった。男はレバ刺しの売人、女はその顧客らしい。
「どこから手に入れた?」
闇ルートがあるはずだった。最近では、レバ刺しが中国から密輸される事件もあいついでいた。尖閣諸島で日中双方の漁船が近づき、そこで受け渡しが行われていたのだ。
ガンは密輸船の摘発現場に立ち会ったこともあった。そのとき漁船からは末端価格10億円の冷凍レバ刺しが見つかった。これを廃棄処分すれば、何人もの日本人の命を助けられるのだと、ガンは、自分の仕事に対する誇りと満足感にひたったのだった。
それは一瞬の隙だった。
男がガンに突進し、試薬に染まったレバ刺しを手に取ると、ガンの口にねじこんだ。その衝撃で、ガンの銃口からは弾が発射され、天井をぶち抜いた。あわててマックが男を取り押さえた。
「ガン、大丈夫か?」
と、マックは男の顔を床にねじふせて言った。
「あぁ、大丈夫」
そういって、ガンは床にレバ刺しを吐き出した。
男は取調べの結果、日本における闇レバ刺し販売の元締めだとわかって、死刑の判決を受けた。
客の女は、裁判でも「鉄分を採るため」という証言を繰り返した。裁判員からは「レバ刺しよりヒジキやキクラゲだと、まだ反省していないのですか?」と厳しく問いただされた。しかも悪質なことに、ごま油と塩で食べていたことが発覚。これは裁判員たちの心証をさらに悪くしてしまい、女に無期懲役が言い渡されたのだった。
そのテレビニュースをガンとマックはLSPの本部で見ていた。
「ごま油と塩じゃぁ、無期はやむをえないだろう」
と、マックは吐き捨てるように言った。
ガンは、どこかうつろな目で眺めていた。あのとき、ガンは、レバ刺しを少し食べてしまった。マックからは、「多少口に入っても、ただちに健康に害はない。気にするな」といわれたが、ガンが悩んでいたのはそこではなかった。
「どうしてあんなにうまいものが禁止されているんだろうか」
LSPに配属されて2年、彼はこれが正しいことだと思って働いてきた。しかし、レバ刺しのとろけるような舌触りと味に、彼の信念は揺らぎ始めていたのだった。
「今度はごま油と塩で食べてみたい。いやニンニク醤油のほうがいいだろうか。迷ってしまう・・・」
禁断の味を知ってしまったガンの苦悩は、いまや、レバ刺しをどうやって食べるかだったのである。
(おわり)
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