棚田がどうして美しいのか、生物学者長沼毅氏の話で気がついたこと
昨日、たまたまテレビを見ていたら、「科学界のインディ・ジョーンズ」と呼ばれる生物学者の長沼毅氏のインタビューがあって、「あぁこの人か」と、初めて名前を覚えることができました。以前からおもしろいことをやっている人がいるなぁと思っていたのでした。
深海の火山で発見されたチューブワームとよばれる生き物の話は興味深かったですね。海水から酸素を取り入れるのは普通の魚と同じですが、チューブワームがすごいのは、熱水噴出孔から出てくる、普通の生物には毒となる硫化水素というイオウの化合物をとり込んでいて、それを栄養にしていることです。絶対生き物なんかいないようなところにも生き物はいる。その驚きといったらありません。
チューブワームは、浅い海では天敵が多く、生存競争に負けた生き物が、深海で変化して生き延びた。環境に合わせて「はびこる」ことが、生命の強さであると。そんなふうなことを言っていました。
これを聞いて、ぴんとくるものがありました。
ちょうど世界遺産になったばかりの「ハニ棚田」については前回も書きましたが、棚田の形にも似たようなことがあるんじゃないかなと。
もともとハニ族の祖先は、チベット高原で遊牧をしていた人たちで、雲南に南下してきたとき、すでに低地(平地)では、タイ族系の人たちが稲作をやっていたので、山の上に住むしかなかった。(マラリヤに対する免疫がなかったという話もありますが) そこで稲作を学び、山の斜面に棚田を造って住み始めた、おおざっぱに言うと、こんな歴史だったと思います。
何がいいたいかというと、ハニ族が好き好んで雲南の山奥に住み始めたのではなくて、他民族に追われたり、戦いに負けて、しかたなく不便な斜面で暮らし始めたということです。でも、あきらめなかった。そこで棚田というものを造って生き延びたわけです。「負」の環境を「正」にしてしまうというところがすごい。
棚田の形というのは、チューブワームの形と同じように、「「負」の環境を「正」にしてしまった形」という意味なら同じなのではないかと思ったのです。棚田の形には、人間の、何としてでも生き延びるという意志、生命力の強さが現れていて、そこが「すごい」ところで、「美しい」と感じる点ではないかな、と。
初めて棚田を意識したのは、元江県で棚田を見たときでしたが、そのとき漠然と「これは何かすごいものを見た」という思いは、長沼氏の話を聞いて、少しだけ理由がわかったような気がしました。
それにしても、なんでもかんでも棚田に結びつけるのはやっぱり「棚田病」の末期症状にいよいよ近づいてきたかなと思います。ちなみに、南極にまた来たくなることを「白い病」と呼ぶそうですが、長沼氏も「白い病」にかかっているそうです。
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