俳優 坂本長利さん出演の映画『ハーメルン』と独演劇『土佐源氏』を鑑賞して
(映画『ハーメルン』のロケ地になった昭和村の紅葉。福井昭夫作)
先日、友人の知り合いの俳優坂本長利さんの出演している映画と独演劇を鑑賞するイベントに行ってきました。
坂本さんは『北の国から '87初恋~』で、純の初恋の相手であるれいの父親、大里政吉役をやっていた俳優さんです。この登場人物は印象に残っています。
映画『ハーメルン』では、福島県の山の中の廃校に住み続ける元校長先生役でした。ロケ地は奥会津の昭和村にある「旧喰丸小学校」。大きなイチョウの木と木造校舎が印象的なところです。監督・脚本の坪川拓史氏は、イメージに合う廃校をずいぶん探し回ってここを見つけたそうです。田舎独特の静かな時間の流れが画面から伝わってきました。
坂本さんは『北の国から』でも、仲間ともうまくやれない偏屈で頑固親父を演じていましたが、今回も、孤高の頑固者です。でも、かつての教え子である西島秀俊氏扮する県職員の男は、だんだんこの校長先生の思いに共感していくのでした。
もうひとつの独演劇『土佐源氏』は、宮本常一著『忘れられた日本人』の中にある話です。「創作ではないのか?」と疑われたほど物語として完成度の高いものだそうです。
民俗学者 宮本常一氏が高知県の山の中、旧梼原村で出会った盲目の貧しい男の昔話を聞き書きしたものです。独白の内容は、過去に関係を持った女たちが登場する女遍歴(自慢?)なのです。学問も才能も金もない男が女にだけはもてる。どうしてなのか? という自己分析もちゃんとしていて、当たっているなぁと思うのですが、それが妙に面白い。参考になります。創作ではないか?と宮本氏が疑われるのもわかります。
舞台挨拶で坂本さんは、『土佐源氏』は「芝居としてやっているのではありません」といいました。たぶん(俺の解釈ですが)、原作を忠実に再現するということなんでしょう。つまりは、自分は「役者」ではなくて、「媒介者(メディア)」としてやっているという意味でもあるような気がします。この男が坂本さんに乗り移ったような舞台を目指しているのかもしれません。現に原作者である宮本氏は、坂本さんの舞台を見て、ときどき坂本さんの表情がこの男と似ているとも言っていたそうです。
迫力がありました。ほんとに「この男がそこにいる」ようでした。
悲惨な境遇にもかかわらず、けっして暗くはなく、むしろひょうひょうと人生を歩んできた男の軽やかさみたいなものも感じました。それを表現できるのは役者坂本さんの力量もあるんでしょう。そして男の人生を丸ごと肯定する坂本さんの暖かい眼差し(解釈)があるからこその表現なんだろうなと思いました。
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