高倉健さんが出演した雲南が舞台の映画 『単騎、千里を走る。』
高倉健さんが亡くなりました。ご冥福をお祈りいたします。
最近はニンニクのCMに出ていたし、元気なんだなぁと思っていたのですが。
健さんと言えば日本を代表する俳優のひとりです。いや、世界的な俳優でした。とくに中国では、昔から知られていました。
1984年、俺が初めて中国へ行ったとき、列車の中で中国人と話をしていると必ずといっていいほど出る話題が、「ガオツァンジェンを知っている」でした。
「ガオツァンジェン」と聞いてすぐ「高倉健」だとわかる人は中国語がある程度できる人。俺はほとんどできなかったので、発音ではわからず、知らないと首を横に振ると、「お前日本人のくせに、どうしてガオツァンジェンを知らないんだ?」と非難されました。「じゃぁ、ツイプーは?」と聞かれ、知らないと答えると「追捕」と書いてくれましたが、その映画らしいタイトルも知りませんでした。
中国では「タカクラケン」でも「ケン・タカクラ」でもなくて「ガオツァンジェン」なのです。名前を漢字で書いてもらって、ようやく分かりました。
中国と健さんを結びつける映画で印象に残っているのが『単騎、千里を走る。』 (千里走単騎)です。
チャン・イーモウ監督は、健さんのファンでした。いつかいっしょに映画を作りたいと考えていたそうです。
あとでわかったことですが『追捕』とは、映画『君よ憤怒の河を渉れ』の中国でのタイトルだったので、俺が知らないのも仕方のないことだったのですが。
この映画によって健さんが中国で人気を博したとのことです。公式サイトによると、チャン・イーモウ監督は1979年ころにこの映画を観たと答えています。(日本では1976年に公開されたそうです)
『単騎、千里を走る。』のロケ地は、雲南省麗江の他、麗江郊外の石鼓の村、元謀の土林などでも撮られています。「長卓宴」という、ハニ族の「長街宴」と似た多人数の食卓風景も出てきますが、これはどこで撮られたのでしょうか。映画用かもしれません。
多少、設定に無理を感じたところもありますが(主人公「高田(健さん)」が雲南へ行く動機に唐突さを感じたこと、中国の刑務所に外国人が入る許可が簡単に下りたことなど)、「映画だから」と割り切れば気になるほどのことでもありませんが。
出演者(中国人)は素人だそうで、しかも実名で登場していたらしい。素人の人たちの演技と思わせない自然な感じは、さすが、チャン・イーモウ監督です。雲南の匂いを感じさせる映画になっていたので好きな映画のひとつになりました。
高田と少年ヤンヤンとのふれあい。言葉ができなくてコミュニケーションがうまくいかないことは外国を旅するとよくあることですが、もしかしたら、この場合、言葉が通じないからこそ、高田と少年ヤンヤンとは、心が通じ合ったのかな?とも思います。どんなに通信手段が発達しても、直接出会って、目と目を見て、体温体臭を感じることの意味は大きいでしょう。言葉(理屈)ではなく、体(感覚)で分かることの大切さみたいなことを、監督は表現したかったのではないか、とも思うのです。言葉が通じなくても、心は通い合うということは、俺も、外国を旅してたまに実感します。
そう考えると、高田が、仮面劇の撮影はしなくても良くなったのに、あえてまた刑務所へいって少年の父親に会う意味もわかります。写真だけなら、あとでプリントでもして渡してもらえばすむのに、高田は、直接彼に会いたかったのでしょう。いや、会う必要があったのです。直接会って、ヤンヤンを思う父親の気持ちを感じることで、高田自身もそこに自分を投影し、自分の息子との距離を縮めることができると考えたのかもしれません。ただ悲しいことに、そのとき、すでに高田の息子は亡くなっていたのですが。
主人公の高田はかっこ良かった。いや、ちょっと良すぎたかな。チャン・イーモウ監督の思い入れなのでしょう。全体的には「遠くから来た日本人を助ける親切な中国人たち」という仕上がりにもなっているので、中国人にも評判は良かったのではないでしょうか。今のように日中がこじれる前の、いい関係だった時代です。
ところで、高田の息子が、雲南に6ヶ月滞在し仮面劇を撮っていたことといい、その息子が麗江の玉流雪山をボーっと長時間眺めていたことがあったことといい、高田と息子の会話があまりないことといい、「まるで俺の話しだな」と、観ていて思ったのでした。しかも、この息子は「健一」という名前でした。
この映画は、父親と息子の関係修復のドラマといっていいでしょう。父親と息子って、難しい関係ですよね。分かり合う前に、俺の父親は数年前に死んでしまいましたし。
健さんが雲南を舞台にした映画に出てくれて感謝しています。この映画は健さんとともに忘れられないものです。もう一度、この 『単騎、千里を走る。』 を観てみたくなりました。
中国でもニュースに。
高倉健死去、中国で悲しみの声=「彼のドラマで日本好きに」「高倉健の代わりは誰にも務まらない」
(http://news.nifty.com/cs/world/chinadetail/rcdc-20141118029/1.htm)
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