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2015/08/30

映画『レイン Rain(Three Days of Rain)』を観て

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『 レイン Rain(Three Days of Rain)』は、ヴィム・ヴェンダースが製作総指揮を担当し、チェーホフの短編を映画化した6組の男女の破滅的で悲劇的な群像ドラマです。この作品はヨーロッパ各国の映画祭にも出品されました。

日本では劇場未公開だそうです。刑事コロンボでおなじみのピーター・フォークも、印象的な徘徊老人を演じています。

雨とジャズ音楽がずっと画面に映り、流れています。どこか憂鬱で、幻想的な雰囲気をかもし出しています。不思議な映画です。

6組の中で、ある成功者といってもいい男が一番気になりました。

見た目は恵まれているので、どうしてこの男が破滅的、悲劇的なのか、最初はわかりませんでしたが、映画を見終わった後、そうか、こういうことかもしれないと思いました。

雨の夜、夫婦で高級レストランからの帰宅途中、路上で「食べ物をくれないか」と声をかけてきたホームレスと出会います。男はあげようとしますが、奥さんはホームレスを拒否し、食べ物をあげませんでした。それから夫婦関係がぎくしゃくしてきます。

男はホームレスが気になってしかたなくなります。奥さんはそんな夫に、すべてのホームレスを助けるつもりなの?と嫌味を言います。

男はいったん気がついたことを、頭から振り払うことはできなくなってしまったようです。食べ物をあげなかったことを後悔し、ホームレスを探しにいきます。見つけることはできませんでしたが、近くのキオスクの親父は彼のことを知っていて、名前を教えてくれました。

名前を知ったことで、「ホームレス」というカテゴリーから一人の人間へと意識が変わりました。そしてますます頭から離れなくなります。いい人間になるチャンスを逃したともいいます。

男は気がついてしまったのです。「天使のささやき」、いや、「悪魔のささやき」なのかもしれませんが。

たぶん、妻の言うことは一理あるのです。世界中至ることころにホームレスはいるし、彼らをすべて助けるなんてことは不可能です。それなら自己満足にも見えてしまう、生半可なことはしないで、最初からすべてのホームレスに関わらないという選択肢は、現実問題としてありでしょう。

でも…

男は気がついたのです。ひとりの「人間」に気がついてしまったらもう取り返しがつかないのです。

妻(つまりは世間)が主張する考えが、いかに正しくとも、いかに合理的でも、たぶん男にとっては、辛くてしかたないのです。自分は彼を助けて、いい人間になりたい。しかし現実には助けられない。この無力感や矛盾を抱え込む辛い思いがずっと続くのです。

これこそが男にとっての悲劇だったのではないのでしょうか。

ただラストシーンは、雨も上がり、男の顔もどことなく穏やかになっています。男は引き受ける決意をしたのか、あるいはあきらめたのか。この矛盾というか、不条理というか、無力感というか。そういったもろもろのこと。

それが明るくなった空に一抹の未来が感じられて、俺たち観客もほっとできるのでした。締め付けられるような感情から開放されて日常生活に戻れるのです。多少の後ろめたさを感じつつも・・・
 
 
 
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