お犬様は山への信仰
『オオカミの護符』は、神奈川県川崎市の土橋出身の小倉美恵子さんが、自宅の古い土蔵に貼られた一枚の護符をきっかけにして、オオカミ信仰の世界を探っていくというノンフィクションです。
2008年には『オオカミの護符 里びとと山びとのあわいに』が、文化庁映画賞文化記録映画優秀賞を受賞、地球環境映画祭アースビジョン賞を受賞していますが、『オオカミの護符』はこの映画がきっかけとなって出版された本です。
「庶民がお山に参拝する行いの源には、遥かな古代から脈々と続いてきた「山への信仰」が息づいているように思われた。私たちの暮らし、いや命は、今も変わらず山から生まれ出る水が支えてくれている。」
とあります。
多摩川という1本の川に注目して俯瞰してみると、武蔵御嶽神社の御岳山は、奥多摩湖を経て笠取山に続いています。御岳山や笠取山は、多摩川の水源に当たり、小倉さんの土橋は下流域に当たります。水が流域の田畑を潤し、人々を生かしているということが手に取るようにわかります。
小倉さんの旅は、武蔵御嶽山から、荒川流域の宝登山神社、猪狩神社、源流域である三峯神社訪ね、オオカミ信仰の意味を探し求めています。
土蔵に貼られていたお札はいったい何なのか?を追っていくような構成になっているので、謎解きの面白さのようなものも感じるし、お犬様信仰=オオカミ信仰というのが、山への信仰とつながっていることがよくわかる内容になっています。
山への信仰とは、広く見れば、自然への信仰と言えるだろうし、お犬様=オオカミは、鹿や猪の害から守ってくれる存在であり、何度も書いていますが、『もののけ姫』の白く大きな三百歳の犬神、モロの君に代表される、自然を象徴する存在です。「大口真神」というカミ、あるいはカミそのものではなくても、カミの使い「眷属」なのです。
「オオカミ」を「お犬様」と親しみを込めて呼び替えるところは日本的かなぁと思います。「オオカミ」よりも「お犬様」の方が優しく感じるし、親しみがわきます。ただ、これは秩父にいたオオカミが、犬との雑種だったかもしれないということとも関係ありそうです。
直良信夫著『日本産狼の研究』によると、
「昔の人びとが、山犬もしくは山の犬と呼んでいたものは、真正の狼や野生犬を含めての呼び名であったことだろう。が、実際には見かけの上では、そのどちらともつかない雑犬が主体をなしていたのではなかったであろうか。…(略)…関東地方に遺存している二ホンオオカミの頭骨類を検してみると、狼本来の標徴を有しながらも、なおかついちじるしく家犬化した頭骨類がはなはだ多い。」
とあります。犬との雑種がいたようです。雑種でなくとも、山にはオオカミ、野犬がいて、なかなか区別はつけにくかったのではないでしょうか。
ところで、オオカミ信仰など、古臭いと思う人もいるかもしれないですが、自然信仰の象徴的なものなので、きわめて現代的なテーマでもあると思います。
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