【犬狼物語 其の三十六】 東京都「船の科学館」 初代南極観測船「宗谷」のタロとジロ
東京都の「船の科学館」へ行ってきました。
初代南極観測船「宗谷」は、1956年(昭和31)11月からは日本初の「南極観測船」として活躍しました。展示されている「宗谷」に、タロ、ジロの部屋があります。(平成28年9月1日〜平成29年3月31日まで、工事のため一般公開が一時休止されます)
「宗谷」の見学自体は無料ですが、寄付をするとカードがもらえます。
天気が良くて暑かったということもあり、宗谷の船内は扇風機が回っているものの、汗だくになってしまいました。
でも、レトロな感じがなかなかいいですね。操舵室の各計器なども歴史を感じさせます。
船内の一部屋が樺太犬たちの部屋で、当時は暑さに弱い犬たちのために冷房も完備していたようです。そこに今は、タロ、ジロの可愛らしいぬいぐるみが展示されています。
タロ、ジロの話は有名ですね。置き去りにされたタロ、ジロは南極で1年後生きていることがわかった奇跡の話です。映画にもテレビドラマにもなりました。
『犬狼物語』として感動的な物語なのですが、不思議なエピソードがあります。
昭和33年2月、宗谷が流氷に阻まれて、動きが取れなくなりそうになり、ヘリで、昭和基地の隊員を救出することになりました。この時点では、すぐに第二次観測隊が来ることになっていたので、昭和基地にいた犬係の北村泰一さんは、犬ぞり用の樺太犬15頭の首輪をきつく締め、鎖につなぎ直しました。
でも悪天候によって、交替の第二次観測隊は来ないことが決定。残された犬について、隊員は、連れてこれないなら、いっそ殺しに行かせてほしいと頼みましたが、事態は深刻で、それもかないませんでした。北村さんたちは泣く泣く犬を置き去りにせざるをえなかったのです。
日本に帰った彼らは、「なぜ犬を見殺しにしたのか!」と大バッシングを受けます。北村さんも自責の念にかられて精神的にも肉体的にもかなり参ったといいます。
何も知らない人に限って言いたい放題ですね。それは今も変わりません。北村さんたちの気持ちを考えると胸が締め付けられます。「いっそ殺しに行かせてほしい」という切羽詰った気持ち、よくわかります。
そんなある夜、北村さんは夢を見ます。
南極大陸を走っている2頭の犬の夢です。それを見て「生きていたんだなぁ」と夢の中で思ったそうです。
そしてもうひとり、犬係だった菊池徹さんも、不思議な体験をしています。
全国に樺太犬たちの記念像が建てられて、そのひとつで弔辞を読むことになりました。
犬たちの名前を1頭づつ読み上げていきましたが、13頭までは名前が出たのに、14頭、15頭目の犬の名前が出ません。どうしても思い出せなくて、そのまま弔辞を終わりました。その2頭がタロとジロだったのです。
そして昭和34年1月、北村さんは第3次観測隊に参加して、南極で生き残っていたタロとジロに再会したのでした。
感動的な話であると同時に、不思議な話です。
ユングに言わせれば、北村さんの場合は「予知夢」というわけですね。
でも、ユングと違ってフロイトは予知夢には懐疑的だったそうで、フロイトだったらこう解釈するのでは?ということです。
、
北村さんは犬係だったので、15頭のそれぞれについては熟知していた。だから意識していないところで、タロとジロの生命力がほかの犬より強いことを把握していた可能性がある。だから夢で見た、と。(加えて、タロ、ジロは首輪の潜り抜けが上手だったらしい)
一方の菊池さんの場合も、無意識では2頭の生命力の強さをわかっていたので、「死んだはずがない」という気持ちが、名前を忘れさせた(名前を言いたくなかった)ということのようですが、どうなんでしょうか。
不思議な話ですが、それだけ北村さんや菊池さんの犬たちに対する愛情の深さを表すエピソードであるのは間違いないのではないでしょうか。
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