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2016/11/17

坂本長利さんの1180回目の公演 「米寿記念公演 独演劇『土佐源氏』」

160403_4(2016年4月 埼玉県浦和、楽風での公演)


先日、座・高円寺2で行われた、坂本長利さんの「米寿記念公演 独演劇『土佐源氏』」を観てきました。初演から今回で1180回目の公演だそうです。

最期のあいさつで、「演じている男の年齢を越えてしまいました」と笑っていましたが、ますます男と坂本さんとの「一体化」が進んで、ほとんど芝居とは思えない領域に達しています。

『土佐源氏』は俺はこれで3回目ですが、前回は写真撮影していたので(↑の写真)、ゆっくり観ることができませんでした。今回はじっくり坂本ワールドに浸ることができました。

同じ独演劇のはずですが、新しい発見もありました。

民俗学者・宮本常一さんが、昭和16年の冬、高知県梼原村で聞き取った話で、『忘れられた日本人』に収められています。

ひとりの盲目の老人の口から語られるのは、楽しくて明るい色彩豊かな世界なのです。これには驚きます。

あまりによくできた話なので、これは宮本氏のねつ造ではないか?と疑われるほどでした。

馬喰(ばくろう)をしていた男の女性遍歴の語りですが、なぜか女にはモテた(懺悔も含まれる)、という話なんです。

結果、自慢話なのですが、自己分析も面白いのです。

「牛と女子(おなご)にだけは嘘をつかなんだ」

「牛と女子(おなご)の尻はなめる」

相手の宮本さんに、「あんたも、女子をかまったこと、ありなさるじゃろ?」と聞きます。そして、女子はどんなに身分が高かろうが、やさしさを求めているんだという意味のことを語るのでした。

何もない自分がなぜ女にだけはモテたか、真理をついていた自己分析といってもいいでしょう。

ところで、当時の牛に対する人間の接し方もすごいと思いました。牛を手放す時は、牛に赤飯を食べさせ、酒も飲ませたのだという。人間と同じ様な扱いをして別れたのですね。

このあたりの話は、西洋の「動物を管理する」という発想とはまったく違う、当時の日本人と動物(家畜)との関係性がよくわかるエピソードだと思います。
 
 
もうひとつ印象的なセリフがありました。

「百姓は石を金に換えてくれる」

という言葉です。

馬喰の話は牛をなんとか高値で売ろうとするので、嘘が8割くらいになってしまうのだそうです。ただ、牛を百姓に渡して育ててもらう、そうすると、百姓はいっしょうけんめいに育ててくれるので、牛の価値が実際に上がる。だから結果的に、馬喰の嘘は3割に減る。そんな内容です。

つまり優秀な百姓がいなかったら、馬喰としての生活は成り立たなかった。深いところで、男が百姓に感謝していたことを感じます。

そしてこの話を採取し、選択し、発表したという行為は、日本全国の百姓たちに対する、宮本さんなりの感謝や尊敬のメッセージでもあったのではないでしょうか。
 
 
 
 
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