仁科邦男著 『伊勢屋稲荷に犬の糞 江戸の町は犬だらけ』を読んで
仁科邦男氏の本には、お世話になっています。
『全国の犬像をめぐる』でも、お伊勢参りや金毘羅大権現へお参りした代参犬「おかげ犬」や「こんぴら狗」の章では、『犬の伊勢参り』、『犬たちの明治維新 ポチの誕生』が大変参考になりました。
そして今回読んだのは 『伊勢屋稲荷に犬の糞 江戸の町は犬だらけ』。
「伊勢屋稲荷に犬の糞」という言い回しが気になって著者は長年調べてきたそうです。
「伊勢屋稲荷に犬の糞」とは、「伊勢屋」という屋号の店や「稲荷神社」など、江戸に多いものを並べたもので、実際、江戸後期は犬だらけで、犬のウンチも多かったようです。
意外なものが最後に来ていることと、伊勢屋の「い」、稲荷の「い」、そして犬の「い」と、韻を踏んだところが面白い。多少の皮肉やからかいの気持ちも入っているようです。
だからこれは江戸の人間が当時言っていたことではなくて、明治になってから、江戸を懐古して言われ始めたようです。
犬のウンチを踏んで最悪な気持ちになるというのは、俺も実体験があるのでよくわかります。
今はどうなのか分かりませんが、30年前、フランス・パリで、日本レストランのギャルソンとして3か月間ほどアルバイトをしていた時は、よく踏んじゃっていました。踏むだけならいいのですが(それだけでも大変ですが)、それが滑るのです。滑って転んだりしたら最悪です。
パリは犬のウンチが多い街だとわかってきましたが、初め、信じられませんでした。まさか、この華の都、おしゃれな街パリが、犬のウンチだらけだったとは。ガイドブックにも書いてなかったし、兼高かおるさんもそんなこと言っていませんでした。
最先端ファッションに身を包んだ女性が、シャンゼリゼ通りで立ち止まって、ハイヒールの裏側に着いた犬のウンチを木の枝で取っているところを目撃し、俺は、見てはいけないものを見た気がしてショックを受けたのでした。
高学歴で優秀で弱い人の味方を標榜していた自民党の豊田真由子衆院議員が、裏では「ハゲ~ッ!」「違うだろ!」「このボケ~ッ!」などと、秘書たちに罵声を浴びせていたことが話題になっていますが、パリの犬のウンチは、それに劣らずですね。
江戸では犬は地域犬として、自由に走り回っていたし、その犬のウンチは、人糞や馬糞と違って肥料にもならず、放置されていたようです。乾燥して風で飛ばされ、雨で流されて、自然になくなっていたので、あえてウンチを取る人もいなかったのでしょう。
ところで、この本の中に、もう一つ、面白いなぁと思ったところがあります。それは「お魚くわえたどら猫、追いかけて~」という歌がありますが、江戸で魚をくわえて逃げるのは犬だったようで…。
「神奈川横浜新開港図」という絵には、魚をくわえた犬が天秤棒を持った魚屋から追われているシーンがあります。これって、今なら犬じゃなくて、猫だよなぁ。
江戸の人たちは、犬の好物が魚だと思っていたらしいのです。実際、犬は、魚の頭などの残飯を食べていたということもあります。タンパク質といえば、当時はほとんど魚だったでしょうし。
綱吉時代、中野に犬屋敷「お囲い」が作られましたが、収容された犬には、白米と生魚までふるまわれていたといいます。贅沢料理と運動不足で、死んでしまう犬がたくさんいたそうです。贅沢が幸せかどうかわからない、という話にもなっています。
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