【犬狼物語 其の百九十五】 栃木県さくら市 水神(龍神)を祀る高尾神社
栃木県宇都宮市周辺にも犬像が守護する神社が点在します。
ネットで調べると、それらは「高龗神(たかおかみの神)」を祀る神社だそうです。
栃木県さくら市の鬼怒川のほとりに鎮座する「高尾神社」も、この「高龗神」を祀っています。扁額には「高龗神社」とあります。「高尾神」と「高龗神」は同じ意味のようです。現在の社殿は明治42年(1909年)に建てられました。
「高龗神」とはどういった神様なのでしょうか。まずこの漢字「龗」が難しい字なのですが、「高龗神社の雨口龍字について」に詳しく書いてありました。
「高龗神社の「雨+口三つ+龍」文字の「龗おかみ」は栃木県では口みっつが省略されて雨+龍の「靇」が使われる社がいくつかあり,さらに「高尾」と混在する社すらあります。 (略) また読み方は本来「たかおかみ神社」が正式ですが,栃木県では例外なく「たかお神社」と呼ぶようになりました。」(環境依存文字なので、人によっては見えていないかもしれません)
境内に立つ由来の看板には、
「天候を支配する神が高尾神で、天空や地の底・闇の中にいる神々たちの集団です。雷神・竜神・水神などとなって人々に信仰されてきました。上阿久津の高尾神は鬼怒川と関係の深い水神(龍神)信仰が原点と考えられます。
10月19日の大祭には古法による強く発酵させた甘酒と生の川魚を一緒に供え、それをいただく古式の神事が伝承されています。
古来より農耕や河岸など水とかかわりがあった上阿久津の守護神だったことがしのばれます」
拝殿の前には、大正8年(1919年)10月に奉納された1対の和犬像が鎮座します。犬像の由縁についての説明はないのですが、そのヒントになりそうな記事が福田博通さんによる「神使いの館」にありました。
「この地区の高お神は、高おかみの神を祀るので有名な丹生川上神社(奈良県吉野郡)から勧請されたもので、丹生明神の神使の和犬が置かれているのかもしれない。」
とあります。
各地の犬塚でも、「水」と「犬」との関係はあるようで、それは犬の持つ鋭い嗅覚が水場を見つけたりすることから来ているらしいのですが、とにかく「水」と「犬」とは親和性が高いようです。
また、近くには農業用水を分水する井堰が設けられているそうで、高尾神社はこの井堰を守護するために、水神を祀ったもの、という説もあるようです。
「井堰を護る」という話を聞くと、棚田(水田)が多い、インドネシア・バリ島の「スバック」の井堰を思い起こします。
「スバック」とは、千年前に作られた水利管理組織です。「スバック」それぞれが持つ寺院では祭りも欠かしません。定期的な会合では、水の管理や、管理費の徴集の相談をします。組合員はみんな協力して、水利施設のパトロールをし、水が配分計画通 りにきちんと流れているかをチェックします。
井堰には必ず寺院や祠が建てられていて、水の配分のルールが厳格に守られています。
何割の水を流すか、というのはかなりシビアな問題で、ときには、その水をめぐって争いにもなるからです。水の争いは農業やっているところではどこもそうで、バリ島だけではありませんが。スリランカでは、井堰の見張り役が1日中見守っていました。
2012年には「トリ・ヒタ・カラナの哲学を表現したスバック・システム」という名前で、バリ島の「スバック」は世界遺産に登録されました。
ところで、高尾神社の境内には、1体だけ、古い狛犬と思われる像が置かれています。首から背にかけての模様は残っています。
朽ち始めた石像は、アンコール遺跡のクメール像を思わせました。人工物が自然に帰っていく過程には、そこはかとない愛おしい感情が沸き起こってきます。
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