【犬狼物語 其の二百五十七】兵庫県神河町 播州犬寺
法楽寺は高野山金剛峯寺を総本山とする真言宗の古刹だが、またの名を「播州犬寺」という。どうして「犬寺」なのだろうか。
本堂前の屋根掛けされたお宮の中に本堂に向かって右側に白犬、左側に黒犬の像が控えている。金網に囲まれているが、外れないということなので、写真を撮るのは少々難しい。
本堂には黒犬・白犬が描かれている板絵が掲げられている。その伝説を本堂の前に立っている「播州犬寺縁起」から要約する。
枚夫という豪族がいた。都で戦が起こり、枚夫もその戦に従軍することになった。
枚夫には妻がいたが、留守中、妻と家来が不倫関係になった。やがて戦いが終わり、枚夫が都から帰ってきた。
家来が枚夫を猟に誘い、弓に矢をつがえて殺そうとした。
もはやこれまでと覚悟を決め、枚夫は2頭の愛犬を呼び寄せ、「よく聞け。今、家来に騙されて、むなしくこの山の中で私の命は奪われる。人々が来て、私の屍を見られることは大きな恥だ。だからお前たち、私の屍を食い尽くせ」と言いきかせた。
話が終わるやいなや、犬たちは猛然と家来に襲いかかった。一頭が家来の弓弦をかみ切り、もう一頭が家来の喉元に噛みついた。
枚夫が自分の屋敷に戻ると、親族に告げて言った。「私は、この二犬によって命を助けられた。今からこの二犬を私の子どもにする」と。
しかし犬たちは枚夫よりも先に死んだ。犬たちの死を悼み悲しみ、伽藍を建立し、千手観世音菩薩を本尊とした。
不倫がバレると悪いので、いっそ殺してしまおうというのだから、何という家来なのかと思う。それを止めなかった妻も同罪と言えるが。しかし話自体は、今もありそうな話だ。いつの時代も、痴情による事件は後を絶たないということなのだろう。
ここは真言宗の寺なので、犬像は弘法大師を高野山に案内した2匹の犬とゆかりがあるようだ。ただ伝説の筋書きは、似た話が中国の『捜神後記』にあるという。
中国の会稽郡句章県(現在の浙江省)の張然という者が賦役にかりだされて数年間家を留守にしている間、妻と下男が密通したというのだ。妻と下男が共謀して帰ってきた張然を殺そうとするが、烏竜という名の愛犬が下男に飛びついた。張然は下男を斬り、妻を官憲に突き出して死刑にしてもらったという。
たしかにそっくりな筋書きだ。
ところで、長谷は犬寺から車で約30分ほどの静かな集落で、ここに犬塚の碑とお堂があった。
これは播州犬寺の伝説の後日談と言えるもので、枚夫の2頭の犬のうち、1頭が老いてこの地に来て死んだので、事情を知っていた村人が哀れんで墓を建てて祀った。一方枚夫の妻は、家来に味方したことを恥じて出家し、この地に清水寺を建てて隠棲したという。
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