遠藤公男著 『ニホンオオカミの最後』
著者の遠藤さんは、岩手県山間部の分校に教師として勤めるかたわら、コウモリと野ネズミの新種を発見した人だそうです。退職後は作家として多くの動物文学を執筆しました。
この本は、東北、とくに岩手県の狼(ニホンオオカミ)がどのように絶滅したのかを追ったノンフィクションです。
古い資料を探し出し、そこに載っていた住所や名前をたよりに、狼捕獲の痕跡を聞き周ります。そのエネルギーには感服します。俺も見習わなければ、と思います。
「狼酒」というものもあったんですね。岩手の北上高地に狼で作った酒があったという。でも、昔野生動物はすべて殿様のものだったので、勝手に狼を獲って酒に漬けたものは、ごく近いしい人とだけ飲んでいたようで、ほとんど世の中には知られていなかったようです。これを遠藤さんは発見しました。
大槌町の狼祭り(オイノ祭り)についても書かれています。著者が祭りに参加したのは、昭和63年だそうで、残念ながら今はもうやっていません。
俺は今年5月に訪ねましたが、住民によると、祭りはもうやっていませんでしたが、「山の神」と「三嶺山」の碑、「三峯大権現」の碑は残っていました。
その時の記事はこちらです。
【犬狼物語 其の二百六十七】 岩手県大槌町&遠野市 オイノ祭りと三峯神社
狼は、北海道のエゾオオカミが絶滅した後、ニホンオオカミも絶滅しますが、本州でも最後まで残っていたのが、奈良県や岩手県であったらしい。一応、ニホンオオカミは、1905年(明治38年)、奈良県でアンダーソンに売られた雄を最後に絶滅したといわれています。
岩手県民には失礼な話ですが、昔は「日本のチベット」などとも言われていたように、狼が最後まで生き残っていた可能性はありそうです。
明治40年10月13日の巌手日報に「狼を捕獲す」と題した記事があります。
岩手郡中野村(現盛岡市)西安庭というところで、狼3頭を捕獲したというニュースです。
アンダーソンが奈良県で狼を買ってから2年9か月後で、これが本物の狼だったとしたら、奈良県の狼よりも新しいので、日本最後の狼になりますが、残念ながら狼がどうなったかは不明だそうです。
明治になり、狼と人間の関係は徐々に変化していきました。狼は「神・神使い」から目の前で人間を襲う「害獣」となり、狼に賞金がかけられたことで、人間はこぞって狼を撃ち、乱獲が進んでいきました。
また、土地の開発で野生動物の生息地は狭まってきて、狼の食糧である鹿や猪も少なくなりました。
そこへジステンバーが襲いました。狼にも伝染し、群れが崩壊し、狼は絶滅することになりました。
著者はあとがきでこのように書いています。
「人々が狼に素朴な信仰を捧げていたことは美しい。狼は恐ろしいものだったが、自然や田畑の守り神でもあった。私はノンフィクションの動物文学を生きがいとしてきた。八十五歳までかかったが、ふるさとの狼がどのように生きたかを伝えることができたのは、本当にうれしい。」
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