『オオカミと神話・伝承』 (02) 千匹狼の伝説
『オオカミと神話・伝承』 の中にある「老婆とオオカミ人間(日本)」というコラムで、南方熊楠が多くの地方から集めた「千匹狼」の伝説を読んで、愛媛県の「犬寄峠」を思い出しました。
要約するとこんな伝説です。
ある旅人が身重の妻と山奥を歩いていると、オオカミの群れに襲われた。木の枝に逃れたが、オオカミたちは、馬乗りになりピラミッドを作って迫ってきた。男は小刀で切り殺したが、次から次へと迫ってきた。やがて一頭のオオカミが「鍛冶屋の婆さんを呼んでこよう」と言った。
オオカミは去ったが、今度は大きな雌オオカミを先頭に戻ってきた。こうして攻撃がまた始まった。男が刀を振り下ろすと老オオカミの頭に傷を負わすことができた。オオカミのピラミッドは崩れ落ちた。
恐ろしい夜を過ごした旅人は、村にたどり着き「鍛冶屋の婆さん」が気になり、鍛冶屋を訪ねると、老婆がいて、昨日頭を打ったといって床に伏せっていた。傷が昨晩の雌オオカミと同じ位置にあった。見破られたと思った老婆は、逃げようとした。しかし旅人は、一瞬速く刀で切りつけると、老婆は死んだ。すると年老いたオオカミに変わった。
これと似たような「千匹狼」伝説は日本各地にあるようですが、興味をひかれるポイントは、オオカミが次から次へと繋がって、木の上に逃れた人間に迫ってくるという「馬乗りになる」という部分です。「肩車する」とか「犬梯子」などとも表現されているようです。狼たちが繋がって上に伸びていくって、本当に面白いイメージですね。
別な本には、たしか、元々この伝説は中国大陸から来たようで、大陸では、オオカミではなくてトラが梯子状になるという話があったようですが。正確には忘れてしまいました。
梯子状になったオオカミの伝説を初めて知ったのは、愛媛県の「犬寄峠」を訪ねた時でした。
「犬寄峠」は伊予市の南にあり、峠には、うち捨てられたような錆びたプレート「犬寄峠 標高306m」とありました。
地元の人にもらった史料「飛脚が山犬に襲われた話」によると、
この辺りの峠は、昔は強盗が出たり猛獣が出る難所でありました。ある時、一人の飛脚が松山を出て大洲に向かい、夜中に峠を通りかかりました。すると眼光鋭い山犬が一匹現われ、飛脚に飛び掛ろうとしたので、飛脚は抜き打ちに山犬に斬りつけました。山犬が死ぬとき一声高く叫ぶと、その声に応えてどこからともなく沢山の山犬がやってきて飛脚に詰め寄ったので、飛脚は傍らの大きな木によじ登ったが、大木の下にはますます多くの山犬が集まって、肩車を作って登ってきて飛脚にかみつこうとしました。
その時ふと、自分の持つ刀の目抜きが鶏の名作で、血潮を得ると精を得て鳴く、ということを思い出し、「この鶏の名作がまこと精あるものなら、見事一声鳴いてみよ」と大声で呼ばわると、刀は「コケコッコー」と鳴きました。この鳴き声に驚いた山犬どもは、木の上の飛脚をにらみながら、あきらめて帰っていきましたとさ。
この伝説では「山犬」とあるので、たぶんオオカミのこと、そして梯子のことは「肩車」と表現しています。
犬(狼)や虎が、肩車して梯子のようになって人間に迫ってくるイメージは、何を表しているのでしょうか? こういうのは、実際の動物の習性ではなく、人間がその動物に対するイメージを持っているからだろうと思います。一説には、跳躍能力の高さを表しているのでは、とも言われているようです。
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