【犬狼物語 其の三百九】 山形県上山市 狼石と斎藤茂吉
山形県の狼信仰(と、いうより狼伝説)、今回は、上山市の「狼石」です。
ちょっとびっくりするような石です。アダムスキー型のUFOにも似ています。「何かある」と思わせる雰囲気を持っています。噴石なのでしょうか。ここを昔の人が特別な場所と考えたのもわかるような気がします。
「パワースポット」や「磐座」と言ってもいいのかもしれません。
石の表面に、雨で穿たれた穴なんでしょうが、狼の足跡にも見えてしまいます。
「南山形自然・歴史野外ミュージアム」の開設看板によると、
上山市金瓶地区にある東西12m、南北7m、高さ約3.3mの巨石は「狼石」「大石」と呼ばれています。
昔、ここに狼の巣穴があったのでこの名が付けられました。また石の下は洞窟になっていて、狼の子が生まれると、村人はそこに食べ物を届けました。
また、この金瓶出身の歌人・斎藤茂吉は狼石のことを歌に詠んでいます。
金瓶の向ひ山なる大石の狼石を来つつ見て居り
(昭和22年作 歌集『白き山』)
山のうへに狼石と言ひつぎし石は木立のかげになりぬる
(昭和17年作 歌集『霜』)
また、ふるさと塾アーカイブスの「おおかみ石(上山)」には、伝説を元にした切り絵風紙芝居が掲載されています。
http://www.yamagata-furusatojuku.jp/material/654/
その内容を要約すると、
蔵王が噴火して大きな石が飛んできました。その中のひとつ、大きな石の根元には穴が開いていて、狼の親子が棲んでいました。
父狼が穴から出た時、人の行列を見ました。それは庄内のお殿様の行列でした。行列の家来は、籠から下りたお殿様に「殿、だいぶ歩きましたので、ここで一休みしてください。この石に腰を下ろしてください」と言いました。
お殿様は、石に腰かけ「今日は、蔵王の山がきれいに見えるのう」といって山の景色を眺めました。
父狼は、この石を「殿様石」と呼んでいると、子狼に教えました。
ある日のこと、最上義光公の行列が近くにやってきました。義光公は、お城の庭に置く石を探したら、みごとな石を見つけました。それは狼親子が棲んでいる狼石でした。
お城に帰った義光公は、「あそこにあった一番大きな石を置けば、立派なおつぼ(中庭)になるから運んでくるように」と言いました。
家来たちが石のところへ行くと、穴から顔を出したのは、狼の子どもでした。父狼は、石の上に立って、家来たちをにらみつけていました。
家来は、「殿がみつけた石は、狼の親子が棲んでいる石でした」と報告すると、義光公は「う~む。狼の親子が棲む石であったか。それを城に持ってくるのは、狼の家を取り上げることになるなぁ。あのような立派な石はふたつとはないが、しかたない、あきらめよう」と言いました。
狼は犬くらいの大きさで、人が飼っているニワトリやヤギなど、何でも食べてしまうので、人に恐れられていました。
しかし、この狼石に棲んでいた狼の親子だけは、人懐こくて、金瓶の人たちは可愛がっていました。
村人は、狼の子どもが生まれると、じょぶに育つようにと、うまいものを持って行って狼にあげていました。
以上、こんな伝説です。
現在、狼石の近くまで開発の手が迫っています。巨大な太陽光発電所も建設中です。「狼石」と名付けられた物語が石を守っているようです。
撤去されることは当分ないと思いますが、この場所にあるから価値があると思うので、移動した時点で、「狼石」は物語を失い、単なる「石」に変わってしまうかもしれません。
単なる「石」なら、砕いて道路の材料にしようが、どうしようが気にならなくなります。
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