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2019/08/17

【犬狼物語 其の三百八十五】 埼玉県の御嶽講

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狼信仰の関東での2大聖地は、埼玉県秩父市の三峯神社と東京都青梅市の武蔵御嶽神社です。それぞれ三峯講と御嶽講が作られて、昭和初期まで盛んに代参が行われていました。代参というのは、講員の誰か、くじ引きなどによって2~3名が選ばれ、神社に参拝し、祈祷を受け、お札をもらって帰ってきて、講員に配るというものです。

お札は、狼の姿が刷られた「お犬さま」のお札が中心で、家々では戸口に貼っておいたほか、辻札といって、村境などに竹に挟んで立てておくこともあったといいます。

また何十年に一度の一大イベントとして、武蔵御嶽神社で太々神楽を奉納することもあり、そのときには、御嶽山に記念碑を建てたり、お世話になっている御師坊に記念額を奉納したりしました。費用もかかったので、これは一生に一度こととされ、代参ではなくて、講員全員でお参りするのがしきたりでした。

御嶽講・三峯講に関する民俗調査が行われていますが、たとえば『埼玉民俗』第6号には西海賢二氏の「武州御嶽講について 比企郡吉見町流川の場合」(1975年記)、第7号に「武蔵における御岳講の展開 特に埼玉県下を中心にして」(1976年記)、が掲載されています。その中に府県別御嶽講中分布表(明治期各県講社台帳より)というのがありました。

この明治期のリストを見ると、御嶽講も、埼玉県が圧倒的に多かったのがわかります。

全御嶽講中の総数は3485講。このうち埼玉県内には1368講がありました。これは全体の39%に当たります。また、講員数も、総数144974人のうち、埼玉県内の人数は63689人で、全体の44%に当たります。半数とは言えませんが、かなりの数が埼玉県にありました。次に多かったのは909講があった東京です。(ちなみに三峯講は昭和15年の調査によれば、長野県が圧倒的に多く1410講、埼玉県が2位で914講となっています)

また県内でも特に御嶽講が濃密に分布するのは、旧入間郡内(特に川越市・飯能市・入間市周辺)、旧北足立郡内(特に大宮市・朝霞市・和光市・志木市・新座市・桶川市周辺)、旧比企郡内(特に東松山市周辺)、南埼玉郡内だそうです。

どうしてか?

ここで講と農業との関連が示されています。昭和22年当時の埼玉県下農家人口構成表から、全人口対農家人口の比率をみると、御嶽講が濃密に分布する地帯に高いことがわかります。つまり、御嶽信仰は特に純農村地帯に浸透していったということらしい。これは上尾市の御嶽講・三峯講を調べた時も出てきた傾向です。

御嶽様は作神で、「肥料がなければ御嶽山に参拝しろ」と、よく言われていたそうです。農家にとっては一番頼りになる神さまであったのでしょう。これは三峯信仰も同様で、農家が求めるのは作神だったといいます。

それと比企郡吉見町流川(1975年記)の場合、講が作られたのは100年以上前ですが、理由が4つあげられています。

(一)当地方は狼の害が多く、農民が非常に困ったという。
(二)狐つきが多かった。この狐つきを落として貰うために御嶽の御師に頼んだ。
(三)火事が非常に多かった。
(四)雷神をのがれるため。

以上のような理由で講が作られたといいます。

ところで、代参で毎年2~3人づつお参りして、何年かかかってすべての講員がお参りすると、それを「満講」といって、新しく講を組みなおします。

そのとき、講員が全員で御嶽神社に参詣して太々神楽を奉納するという講社が多いそうです。

各府県の太々神楽の奉納数は、特に東京、埼玉に集中しています。それで興味深い傾向があるそうなのですが、東京の奉納数が多いときは景気が良い状況の年で、埼玉県の奉納数が多いときは、農業の豊作の年ではなく、むしろ不作の年に多いというんですね。意外です。

東京では感謝のために神楽を奉納し、埼玉では祈願のために神楽を奉納するということでしょうか。町場と農村の人の御嶽信仰に求めるものの違いが表れているのかもしれません。町場では火災・盗難除けですが、農村では、豊作祈願という違いです。

 

 

 

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