【犬狼物語 其の四百四十】新型コロナウイルスとお犬さま(狼)信仰
新型コロナウイルスによる肺炎は、世界中に広がりつつあります。先日は、武漢に渡航歴がない日本人の感染が確認されました。ヒト-ヒト感染の可能性が出てきました。
SARS〈サーズ〉の時も大変でしたが、あの時よりももっと大変になっている状況は、世界的に人の行き来が活発になっていることです。ウイルスは、そこを突いてきたかといった感じです。
とくに日本は、今年東京オリンピック・パラリンピックがあり、人の行き来は最高潮に達します。それまでにはなんとか収束してほしいですが、ある専門家は、オリンピックをまたぐかもしれない、と言っています。
日本で初めてコレラが発生したのは1822年(文政5年)でしたが、3回目の世界大流行時も日本まで達し、1858年(安政5年)から3年にわたって流行しました。
そのとき、東海道筋の東駿から伊豆にかけて、コレラ除けにお犬さまが用いられました。コレラ除けとして、三峯神社や御嶽神社のお犬さま信仰が流行ったのです。当時は、科学的知識に乏しく、神仏に祈るしかないと考えるのもしかたなかったのではないかと思います。
コレラは、「コロリ」と呼ばれ、コレラの流行は、この世のものではない異界からの魔物の仕業だと思われていたそうです。
高橋敏著『幕末狂乱 コレラがやって来た!』によれば、
「これを除去するために根源にいるであろう悪狐、アメリカ狐を退治しなければならない。異獣に勝てるのは狐の天敵の狼、山犬しかいない。そして狼を祭神ヤマトタケルの眷属(道案内)として祀る武州秩父の三峯神社に着目したのは、自然の成り行きであった。」
「安政五年(1858年)七月、安政大地震の恐怖未だ醒めやらぬ巨大都市の江戸市中を即死病コレラが襲った。」
「即死病コレラの猛威に、狐憑きの迷信が息を吹き返して、種々の憑きものの仕業と考える、いわゆるコレラ変じて狐狼狸なり、の流言がまことしやかに広まっていった。」
とのことです。
憑き物落としに効果があると言われた狼の遺骸(頭蓋骨など)の需要が高まり、狼が殺されることになりました。狼絶滅の原因は複数ありますが、これも一因だと言われています。狼信仰が盛んになって狼を絶滅に追い込んだというのも皮肉な話です。
また、岡山県高梁市の木野山神社も狼信仰の神社ですが、江戸後期から明治中期にかけて、コレラや腸チフスなどの疫病が流行した時に、病気を退治するものとして狼様が祀られました。
明治9年(1876)には木野山神社でも講社組織が作られました。明治12年、コレラが初夏~秋に大流行しています。「狼は虎よりも強い」という理由で、狼信仰(木野山神社)が山陽山陰四国地方に拡大していったようです。
このように、狼信仰と疫病の流行には深い関係があります。
肺炎の原因は、ウイルスだと知っているし、今の時代、狼信仰は流行らないとは思いますが、何が起こるかわからないのが今の時代です。
目に見えないもの、知らないものに対する恐怖から、デマや迷信が出たという事実は、福島第一原発の事故のときもあったくらいです。江戸や明治の話ではなく、つい最近の話です。専門家は「伝染病は恐怖心もいっしょに広がる」と言っています。
すでにいろんなデマが出始めています。事実、「新型肺炎はアメリカの陰謀だ」などというものがありますが、江戸時代「コロリは外国が毒を流したからだ」というデマと、何も変わってません。
「お犬さま(狼)は新型肺炎除けになる」と言ったらデマですが、新型肺炎が収まってくれるようにお犬さま(狼)に祈願するのはアリでしょう。
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