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2021/01/07

『犬からみた人類史』の今野晃嗣氏「イヌとヒトをつなぐ眼」

_mg_9987(国立科学博物館 ハイイロオオカミの眼)

_mg_2636(山梨県上野原市犬目宿 ヴィーノの眼)

 

『犬からみた人類史』の第5章に今野晃嗣氏の「イヌとヒトをつなぐ眼」があります。

オオカミとイヌは、「眼」に関して何が違うのかが書いてあり、非常に興味深く読みました。

著者はこう書いています。

「イヌとヒトの距離を近づけた要因の一つは互いの「眼」を介した視覚情報のやりとりであり、それがひいてはイヌとヒトの稀有な共生関係を形作ったりつなぎとめたりする役割を果たしてきたと考えている。」

この前は、イヌの嗅覚のすごさを書きましたが、今回は視覚です。イヌとヒトが同等の嗅覚能力があったら、また別な交流史が描けたかもしれませんが、残念ながら、ヒトの嗅覚はイヌとは比較にならないので、視覚がカギを握ったということではないでしょうか。

オオカミとイヌの眼の違いで一番大きいのは、瞳孔と虹彩のコントラストがあげられます。オオカミの眼は、光彩が明るく、瞳孔が黒いので、どこを見ているかがはっきりわかる眼をしています。これは人間でもそうで、白目と黒目がはっきりしているのは霊長目でもヒトだけで、視線がどこを向いているのかがわかります。(視線強調型の眼)

これは諸刃の剣でもあります。視線を悟られると、獲物を逃したり、他者に威嚇を与えてしまうことがある一方、利害が一致する集団においては、「好意」や「愛着」を表すことになります。デメリットがありながらも、ヒトは、目立つ眼を持つことを選択し、それが功を奏し、地球上で繁栄することができたと言えるかもしれません。

「ヒトの目立つ眼は、同種他個体と「うまくやる」ための交流能力を促進する器官として進化してきたのかもしれない。」と著者も言います。その証拠に、目立つ眼を持つ種ほど集団は大きく、大脳新皮質が発達しているとのこと。これは「社会的知性仮説」として、ヒトの大脳新皮質がどうして大きくなったかを説明しているものがあり、大きな集団を維持するためには、複雑な社会情報を処理する必要があったから、ということと矛盾しません。

でも、イヌは違います。黒目がちな眼で、視線強調型ではなく黒目強調型です。ヒトとオオカミが出会ったときには、お互いが視線強調型の眼をしていましたが、イヌに変わっていった過程でも、黒目強調型に変わったのは後で起こった変化であるらしい。

オオカミとイヌでは何が一番の違いなのかを調べた比較研究があるそうです。

フタを開ければ容器の中の食べ物を取り出せることを学習させたあと、フタを開かないようにする。すると、オオカミはひたすら自分で開けようとするのですが、イヌは、ヒトの顔を見るというんですね。容器とヒトの顔を交互に見るイヌもいたそうです。オオカミはヒトの顔を見ません。

他の実験からも、イヌの方が、オオカミより、ヒトに視線を向けることが多く、解決策をヒトに「頼む(命令する?)」ようです。

これはよくわかります。うちのヴィーノも、水が入ったボウルや、オシッコシートは、居間の隣の和室に置いてあって、戸が閉まっていると、ヴィーノが、じっとこちらの顔を凝視することがあります。明らかに、「この戸を開けて」と言っているのだとわかります。開けてやると、ヴィーノは水を飲んだり、オシッコしたりします。

そして明け方、と言っても早い時は午前3時半、遅くても午前5時ですが、ハッとして目が覚めると、枕元でヴィーノが伏せの格好で、俺の顔をじっと見ています。それでも無視して寝続けていると「散歩に連れていけ」と、顔をひっかくのです。妻はこの前目をやられたので、急遽、枕を覆うように金網のフェンスを作り、ヴィーノの不意打ちを防ぐことにしました。これはまた別な問題、ヴィーノ固有の問題ですが。

視線信号の送信能力に長けているのがオオカミよりもイヌだという考えを補強する神経内分泌的証拠もあります。最近話題の、オキシトシンです。「愛情ホルモン」などとも俗に呼ばれていますね。

ヒトとイヌが見つめ合うとオキシトシン濃度が上昇するというものです。これについては、前にブログでも書いています。

犬と見詰め合うのは、威嚇ではなく、愛情という研究結果のニュース(2015/06/01) 

オオカミはイヌになってから、もっとヒトに気にいられるため、ヒトを利用しやすくするため、眼は視線強調型ではなくて、黒目が多い黒目強調型の眼に変化させてきたということらしい。これによってますます「幼さ」を強調することができ、見つめることで、ヒトにかわいがられたり、守られたりする存在になったという。

「利用しやすく」などと表現すると、ちょっとイヌがあざといように受け取られてしまうかもしれませんが、種が生き残るために「良い」も「悪い」もないし、仮にそうだとしても、ヒトはイヌからそれ以上のものを与えてもらっているし、種が違っても「最良の伴侶・家族」になっているので、双方がwin-winの関係で結果オーライでしょう。

 

 

 

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