【犬狼物語 其の六百四十七】徳島県三好市 犬神落しの賢見神社
徳島県三好市山城町に鎮座する賢見神社は、犬神を落とす神社として有名だと聞き、参拝しました。
細い山道をくねくねと上った先、集落の一番奥、山の中腹の斜面にへばりつくような社殿が見えました。古くは「犬見神社」と呼ばれていたという話もあります。
鳥居をくぐって中へ入ると、社務所、拝殿、絵馬殿などが並びますが、やはり斜面であるために、広い平場の境内が現れるわけではありません。コンパクトな印象があります。
狼の奉納絵画があるとネット情報にあったので、そのことを尋ねると、神社の奥さんが「あれのことでしょうか」と言って絵馬殿に案内してくれました。
見せていただいたのは、意外にも彩色された新しい絵でした。奥さんによると、これは素戔嗚命だそうで、従っている数頭の動物は、狼かもしれないとのこと。いや、これは奥さんが断定できないのもわかります。狼なのかどうか微妙なのです。色が黄土色で、どちらかというと、狼の色より、狐の色に近い。
この絵は、神社にある2幅の掛軸を見た崇敬者が、その絵を基に描いた絵だという。その「賢見皇大神」の掛軸を見せてもらいましたが、確かに同じモチーフです。そしてこの掛け軸の動物はもっと狼に見えます。「狼」を強く意識させる神社ではありませんが、博物館で聞いたように、犬神を祓うものとして狼があるようです。狼は犬神よりも強いという信仰がこのあたりにもベースとしてあるように感じます。
奉納画についてですが、人によって解釈が微妙に違ってくると、狼が狐のようにもなってしまうということでしょうか。いや、狼と狐の眷属信仰が時として入れ替わり、時として曖昧であること、そのことが期せずして表われているのかもしれません。奉納した人が無意識であったらなおさらです。
これは絵だけではなく、話(民話)もそうです。その人の解釈、価値観、希望などが反映されていきます。まるで伝言ゲームのように周辺の枝葉末節な部分はいろいろと変化していきますが、それでも核心となる話は残るということも、この例は示しているかもしれません。
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