【犬狼物語 其の六百四十六】徳島県 ニホンオオカミの頭骨と「犬神文書」
2019/9/8付けの徳島新聞で、ニホンオオカミとみられる頭骨が、徳島市国府町の民家で見つかったというニュースを知りました。
リフォーム工事の人が民家の神棚の奥にしまわれていた頭骨を見つけ、家主の承諾を得て県立博物館に持ち込んだというものです。ニホンオオカミである可能性が極めて高いとの鑑定結果が出ました。
「県立博物館の長谷川賢二副館長は「過去には、頭骨をまつる信仰が県内であったことを示す古文書付きの頭骨が当館へ寄贈されたことがあり、今回の頭骨も信仰に関係があるだろう。資料が乏しく断定できないが、箱にしまって大事にしていた様子から、魔よけの可能性はある」と言っている。」
とあります。
関東地方でも、狼が狐憑きを祓うという信仰があり、ニホンオオカミの頭骨を削って狐憑きを治す薬として使われていたりと、ニホンオオカミの頭骨が数多く見つかっています。この記事を読んで、同じような信仰が四国にもあったのかと驚きました。
それで詳しく知りたいと思い、徳島県立博物館を訪ねて話を伺いました。
白い緩衝材の紙に包まれた頭骨にご対面。頭骨といっても、肉片がこびりついているようでもあって、半ミイラとも呼べる代物です。ただし、これは記事に出ていた2019年に発見されたものではなく、その前、美馬市穴吹、口山の集落の庄屋、緒方家に保存されていて寄贈されたものです。
頭骨のマズルには、「狼天宮」、下顎の側面には「緒方義根」と墨書きしてあります。
関東での狐憑きを落とす目的のニホンオオカミの頭骨が点在しているのと違い、四国では一般的ではなく、この頭骨はかなりレアなケースになります。猟師が魔除けとしてニホンオオカミの頭骨を下げていたという話は聞いているものの、四国での「狼信仰」はそれほど盛んだったとは言えないようです。このニホンオオカミの頭骨も、狼信仰というよりは、犬神を落とすためのひとつの呪具といったものらしい。
それと刀剣と古文書も見つかっています。この古文書「犬神文書」は、文明4年(1472)阿波国内の犬神使いを捜し出し処罰するようにという命令書。当時犬神使いが跋扈し、人々を惑わしていたという。犬神に関する一番古い文書だそうです。(ちなみに関東のオサキの初出資料は1745年のもの)
狼頭骨、犬神文書、刀剣、この3点セットで犬神を落としていました。これを借りたいという人が、90年代にもいたそうです。
犬神とは何か。四国や九州東北部などで信じられていた人に憑く動物霊の総称ですが、関東周辺の「オサキ狐」のようなものでもあるらしく、犬神はイコール「犬」ではなく、オコジョやネズミのような小動物であるというイメージや、埋められた犬の首、手のひらに乗る小さな犬という実際に犬のイメージの場合があります。
四国には、犬神や狸に憑かれるという話はありますが、狐憑きはないという。四国に狐が棲息していなかったからという俗信もあるそうですが、どうしてないかははっきりわかりません。
いずれにしても、憑き物あるところに狼ありですね。セットで出てきます。「悪=犬神・オサキ等」と「善=狼」表裏一体の関係でしょうか。ただし、この善悪は固定したものではありません。
憑き物がどのようであったかは地方によって違います。何かの理由があって、四国では犬神というイメージになり、山陰や関東では狐のイメージになったということかもしれません。
ところで、三好市に鎮座する賢見神社は、犬神を落とす神社として有名だとのこと。徳島県人のみならず香川県からも崇敬者が参拝します。憑き物を落とすのは狼ということは意識されているそうです。この例からも、狼の霊力が犬神よりも圧倒的に強いということは四国でも信じられていたようです。
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