【犬狼物語 其の六百三十九】大分県竹田市 くじゅう連山と長湯温泉
ツイッターでフォローしている人から、ある書籍を教えてもらいました。
その中に、長湯温泉近くの山にまつられていた江戸時代の狼石像(高さ21㎝)の写真が載っています。今は、その著者(蒐集家)の庭に置いてあるそうです。
その写真のキャプションには、「売り主は、久住の山に点々といる狼は、皆、石の祠に入れられ、大切に祭られてきたと言っていた」とありました。(おそらく「狼」とあるのは「狼像」のことでしょう) 九州の狼信仰の痕跡が少ない中での、貴重な情報です。それで長湯温泉を訪ねてみました。
もう狼像や祠自体はなくなっている可能性が高いと思いましたが、せめて話だけでも知っている人がいるのではないか、そういう狼信仰の痕跡が残っているのではないか、という淡い期待があったのです。
事前に竹田市教育委員会などにも問い合わせていましたが、まったく情報がなく、それならば現地へ直接行って聞こうという、いつもの取材方法を敢行しました。
観光案内所、公民館、市役所支所、日帰り温泉などで尋ねてみましたが、もちろん収穫はゼロ。「もちろん」というのはこの場合、里で聞いてもダメで、山村で聞くべきですが。おそらく、山仕事をする人たちが山に祀っていた小さな祠だったでしょうから、かなり当事者に近い人でないと知らないでしょうね。しかも江戸時代であればなおさら。そこまで必須の取材ではなかったので、諦めました。
書籍には「売り主」とあったので、九州の他のところで聞いた、このあたりの神社にも多くの山犬像があったが、ことごとく盗まれた、という言葉がいつまでも頭に残っていて、もしかしたら、この狼像も、その中のひとつなのかとも疑ってしまいます。
長湯温泉だけではなく、1代2代過ぎてしまうと、狼信仰の痕跡も忘れ去られてしまうことをあらためて思い知らされます。しかも「物」が無くなってしまっては、もう物語を伝える方法がありません。最初からなかったということと同じではないのかとも思います。
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