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2023/05/22

エリ・H・ラディンガー著、シドラ房子翻訳『狼の群れはなぜ真剣に遊ぶのか 』

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動物の家畜化に成功したのはオオカミから犬が最初です。そのことは人間にとって大きな転換点になったのではと思います。

『狼の群れはなぜ真剣に遊ぶのか』の著者、エリ・H・ラディンガーは、女性弁護士から転身してオオカミの保護活動を行い、講演会・セミナーなどで「オオカミと自然や生態系についての知識」を広めている異色の作家だそうです。

 犬の家畜化についてはいろんな説がありますが、この本には、さすがに女性の目からみた説だなぁと思う部分がありました。

「オオカミを社会化するために、つまり、最初から人間に慣れさせるために、赤ちゃんを早期に母親から離す必要がある。私たち職員は赤ちゃんの乳母であり、哺乳瓶でミルクを与え、毛づくろいや添い寝をして、数週間後に家族のもとに戻す。これは家畜化ではなく(家畜化は数万年を要するプロセス)早期感化であり、こうして育ったオオカミの大人は人間を怖がることはない。(略)
 はるか昔に人間の男がこのようにしてオオカミの赤ちゃんを感化したということは考えられない。なぜなら、ミルクを与えることがそこに含まれるが、家畜のいない時代は女性の乳しかなかったからだ(牛・羊・山羊・豚の家畜化は、オオカミより遅い)。つまり大昔のある日、ある女性がオオカミの赤ちゃんを抱いて母乳を与えたということになる。母乳が余っていたのか、それとも見捨てられた無力なオオカミの赤ちゃんをかわいそうに思ったのか。何も予期せずに人類に革命をもたらしたことになる。というのも、オオカミに続いて有用動物が家畜化され、狩猟から牧畜へと移行することになったから。こうして歴史は新しい針路をとった。」

といいます。さらにこう続けるのですが、

「もしかすると、進化における特別な役割のことがいまも記憶に残っているため、私たち女性はオオカミに親近感を抱くのかもしれない。」

ちょっとここは「女性」であることを強調しすぎの感があります。女性だけがオオカミに親近感を持っているわけではないでしょうし。

まぁ違った見方は何事にも大切です。結局は「説」でしかないわけですが。もしかしたら、オオカミの赤ちゃんではなく、性格穏やかな大人のオオカミだったかもしれないし、ケガをしたオオカミを馴らしたのかもしれません。いろんな状況が考えられます。

オオカミから犬に家畜化されたストーリーは、証明のしようがありません。だから、我々素人が勝手に想像することも自由ということでしょう。

でも、どうやってオオカミを犬にしていったか、ということはわからなくても、オオカミから犬を創り出したのは事実だし、そのことが後の人間にとってどれだけの転換点になったかということは重要なところかなと思います。

前回のブログ記事でも書きましたが、単に家畜化に成功したということ以上に、それまで神(あるいは神に近い存在)であったオオカミを、手元に置くことに成功したわけですから。人間に「これはいける」と思わせたのではないでしょうか。その後、牛・羊・山羊・豚の家畜化も成功しています。

近代になって、急激に神なるものを信じなくなってきたことも、元をさかのぼれば、この犬の家畜化に始まったのではないか、という気がするのですが、いかがでしょうか。

 

 

 

 

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