犬の時間
犬恐怖症だった俺が、ヴィーノと出会い、ヴィーノと暮らすようになって思ったことは、どうしてヴィーノはこんなにふてぶてしいくらい自信に満ち溢れているのだろうか、という感覚でした。この自信はどこから来るんだろうと、ずっと考えてきました。
人間の不幸のひとつは、過去と未来に縛られることにあるかもしれません。犬は、いや、オオカミや他の動物は、現在をせいいっぱい生きているということなんでしょう。
昔はできたのに、今はできなくなって悲しいとか、今これを食べてしまったら、明日のごはんがなくなって困るから、残しておこうとか、過去や起こってもいない未来のことを煩い、心配し、悩む。まさにこれがマインドワンダリングで、そういう雑念を払うことで精神衛生をいい状態に保つというのは、認知行動療法でもやったことです。
養老孟司さんと池谷裕二さんの対談で、「時間」というのは人間の脳の中にしかない、といったことを話していました。
でも、俺は、ヴィーノの様子から、多少の時間の観念は犬にもあるのではないかと思います。それは「待て!」と言われて待っているときです。これは必ずしも時間の観念があるから「長い」と感じているのか、それとも、単によだれが出て来て困るので、待っていられなくておやつを食べてしまうのかわかりませんが、待っている間はやっぱり過行く時間を感じているように見えます。
いや、時間の観念はあるけど、それを人間のように「単位」にはしないということではないのかな。人それぞれに進んでいる時間を、同じ「単位」で測ってしまうところに人間の不幸は生まれる気がします。
昔アルバイトで生産ラインに入って製品組み立てをやったとき、自分では速くやっているつもりだったのに、「遅い!」と注意されたときのショック。人との時間感覚のずれに気がついて、俺は人といっしょにやる仕事は向いてないなぁと実感。
犬たちは、自分に流れる時間をそのまま受け入れるだけで、けっして他の人(犬)と比べたりはしていません。
こんな体験があるんじゃないでしょうか。夢中になって何かをやっていると、あっという間に時間が過ぎていること。夢中でやることで、過去も未来もなくなる、時間が無くなるという感覚ですか。たぶん、こんな感じが動物の「今をせいいっぱい生きる」ということと近いのではないかなと思うのですが。
| 固定リンク
コメント