猫塚と鼠塚
御前崎市には猫塚があり、伝説があります。
かいつまんでいうと、海を漂っているところを寺の住職に助けられた仔猫は、あるとき旅僧に化けた古鼠から、隣の猫と協力して住職を守ったのでしたが、戦いは激しく、猫たちは死んでしまいました。そこで手厚く葬ったのが猫塚です。
この話には続きがあって、死んだ古鼠が村人の夢枕に立ち「御前崎の漁業の守り神となりますから私のお墓を作ってください」と頼み、鼠塚も建てられた、ということです。
なぜかこの地では、敵のねずみも守り神に祀りました。バランス感覚が働いたということでしょうか。
それに関して、信州にあった習俗がこの猫と鼠がセットで祀られていることと関係しているのではないかと思わせます。
野尻湖畔の山村では「新暦大晦日に、猫と鼠に年を取らせると云って、猫には魚の汁などを飯にかけてご馳走し、鼠には米をばらまいてやる。年を取らせぬと次の年に悪さをするという(小林忠太郎氏談。一九四〇年代の行事)(『猫の民俗学』)
信州の下条村では、正月十四日には家畜、家財道具いっさいに年を取らせる。「鼠には篩を伏せてその上に飯を盛り煮干しをそえて鼠の通りそうな場所へ置くなどして年を取らせる(『民俗』二巻二号、一九二七年)」(『猫の民俗学』)
「猫と鼠に年を取らせる」という習俗。
猫と鼠に年を取らせないと祟るという考えがあって、このような習俗があったらしいのです。
これは、鼠が「漁業の守り神となりますから」と自分で「祟りません」と宣言しているようなものです。鼠が悪さをしないことは豊作・豊漁につながるということなんでしょうね。
猫にまつわる伝説というと化け猫伝説が幅をきかせていますが、これは猫は化けない恩返しの話で、猫伝説の中では貴重なのかな(しかも猫像も伴って)と思います。
猫にも義猫がいたんです。
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