
「のろし」とは古くから使われている、藁や芝などを燃やして煙を出し、遠方に合図を送る通信方法です。
漢字では「狼煙」と書きます。狼の煙というのは、古代中国で、煙がまっすぐ高く立ち上る性質があるとされる狼の糞を燃料に混ぜていたからというものです。
唐の段成式撰の『酉陽雑俎』に「狼糞煙直上,烽火用之」(狼の糞の煙を直上させ、烽火に用いた)とあります。万里の長城には一定の距離ごとに狼煙台の跡が残っており、狼煙を上げて騎馬民族の襲来を知らせたそうです。(wiki)
参考までに「万里の長城から立ち上る狼煙」のAIで生成した画像を掲載しておきます。
狼は肉食なので糞には油分が多く含まれているため、狼の糞は黒く濃い煙がまっすぐ立ち上りやすいという説があります。
万里の長城付近には当時狼がたくさん棲んでいたのでしょう。それはわかります。でも、大量に狼の糞を集められるものなのか。そして狼の糞だけではありませんが、油分の多いものを燃やすと本当に煙がまっすぐに立ち上がるなどという性質があるのか。どうも疑問なのです。
そこで興味深い実験を見つけました。
日本でも狼の糞を入手するのは困難で、三重大学忍者(狼煙)研究会の古代山城研究会の報告によると、実際に狼煙に使われたのは杉、檜、松の葉のついた生木だったそうです。
三重大学の「発煙筒による狼煙の予備実験」(https://www.rscn.mie-u.ac.jp/iga/igakyoten/semina77/150612norosi2.html)によると、
「風向・風速が大きなカギをにぎっているようです。この煙は科学的に合成した、かなり濃度が高い物です。しかし、1500年代の狼煙は大がかりとはいえこれほどの濃度は無いとおもわれます。5-10Km遠方での確認はなかなか難しかったことが推察されます。」
このように意外と狼煙を作るのは難しいらしい。漫画ではありますが、煙がまっすぐ立ち上るところを俺は今まで一度も見たことがありません。よほど無風状態とかの気象条件が合わないと使えない通信手段であるなら、一刻を争う戦時下での価値はあったのだろうか、という疑問も。
それでも、煙が一直線に立ち上らなくても、遠くに煙が見えれば通信手段としては成功です。狼の糞を使わなくても。
古代中国では狼の糞を混ぜて燃やしたのは事実としてあったのかもしれませんが、それがメインであったかはわかりません。
ただ、狼由来にすることは、狼煙だけではなく、例えば、牙や骨をお守りにしたり、毛皮をかぶったり血を飲んだりして、狼の強さを身に着けたりしていたようなので、名前に「狼」を入れることはこれらの一連の狼信仰の流れからしても不思議ではないのではと思います。
また『神なるオオカミ』は前に読んで感動しましたがすっかり忘れていました。狼煙のことが出ていたんですね。
狼の糞を混ぜても煙がまっすぐ立つなどとは思えなく、むしろ、遊牧民には狼祖神話があるので、漢民族からすれば狼の民族の襲来を告げる狼煙に「狼」の字をつけたことに信ぴょう性を感じます。
ただし『神なるオオカミ』はあくまでも"小説"であって作者の創作である可能性もあります。
どちらにしても「狼煙」の名前そのものが狼信仰の産物なのかもしれません。
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