(映画『福田村事件』公式サイトより)
そのうち観なければ、と強く思う映画です。
映画『福田村事件』公式サイト
https://www.fukudamura1923.jp/
関東大震災直後、避難民から「朝鮮人が集団で襲ってくる」「朝鮮人が略奪や放火をした」との情報を聞いた福田村の村人が、疑心暗鬼に陥り、人々は恐怖にかられます。そして混乱のなかで善良な村人たちがだんだんと過激化していき、ついには惨劇が起こってしまいます。
昨日、NHKクローズアップ現代で、監督のインタビューがありました。監督は、人間の集団行動に注目しているようです。肉体的に弱い人間が地球上で生き延びることができたのも、集団行動をとることでした。(集団で狩をすることはオオカミから学んだという説は、何度も書いていることですが)
でも、集団行動には副作用があります。とくに平時は問題ないのですが、有事になったときです。恐怖や疑心暗鬼にとらわれ始めると、「個」はなくなり「集団」の意志が暴走し始めます。不安や恐怖を感じたとき「集団」は、ひとつにまとまろうとし、異質なものを見つけては攻撃し排除しようとします。
こういった悲劇を起こさないためには?という質問に、監督は、「集団」を主語にしないことが大切だと言います。その通りですね。ただ有事には「個」を保ったとしても、「集団」の力は強く、どうしようもなくなる場合があるとも。まさに「福田村事件」がそうだったのでしょう。
心理学者スタンレー・ミルグラムが行った服従実験というのがあります。ナチス政権下でユダヤ人虐殺に関係したとされるアイヒマンに由来して「アイヒマン実験」ともいわれますが、普通の人たちも、ある状況の元では、権威者に命じられるままに、罪のない人に電気ショックを与え続けるという実験です。
それと並んで有名な心理学的実験は、フィリップ・ジンバルドの監獄実験というものがあります。
スタンフォード大学で模擬刑務所を作り、大学生を囚人役、看守役に分けて生活をさせるものでした。参加者たちは自分の「役」に没頭し、看守は攻撃的、威圧的になってゆき、囚人役はより服従的になっていきました。でも、囚人役が心身に異常をきたしたので、2週間の実験を取りやめ、6日間で終了したという実験です。
普通の人たちが「役」にはまることで、どんなふうに変わっていってしまうのか、見ていると恐ろしくなります。なぜ恐ろしいかというと、「彼らは特別な人間」ではないからです。
ミルグラムがいうところの「状況の力」がいかに人間の行動に影響するか、俺たちはなかなかわかりません。
たとえば、ある犯罪が起こったとすれば、「あいつは残忍で非情な性格だからあんなことをやったんだ」と、つい結論してしまいます。それは「あいつは異常で俺たちとは違うのだ」と思い込むことで、どこか安心したがっているからでしょう。「俺は犯罪を犯さない」という(根拠の無い)自信を持ちたいのです。
ところが「状況の力」を過小評価し、個人の性格などに理由を求めてしまうのは、人間が共通して持っている「基本的な帰属のエラー」と呼ばれるものだそうです。
つまり状況しだいでは、どんなに「善良な人」も、最悪なことをやってしまいかねないということです。ということは、「俺もそうやってしまうんだろうか」という不安がぬぐえないことになってしまいます。
でも、「状況の力」のことを恐れているなら、逆に、そういう状況を作らない、そういう状況を拒否することで、最悪な行動を取らなくてすむかもしれません。
「自分はそんなことはしない」という自信を持っている人ほど危ないとも言えるわけですね。「(自称)善人」の危うさはここにあるようです。
「福田村事件」のような状況はまた生まれる可能性があります。いや、現に今、そんな危ない状況が生まれているように見えます。
たとえば、福島第一の原発処理水問題。インタビューである中国人は、正確には忘れましたが、こんなふうに言っていました。これは世界中の環境を破壊し、人々を不幸にします、といったようなことをです。
一方の日本人も、中国人は科学的ではないとか、なんとか。両方とも、中国人は主語を「世界の人々」にし、日本人もだんだんと「個人」の意見ではなく「日本人」の意見のように言い始めている人たちがいます。「お前が世界の人や日本人を代表しているわけじゃないだろ?」と突っ込みを入れたくもなります。気持ち悪い正義感のような物がにじみ出ています。
「中国人」「日本人」として応酬が始まると、だんだんエスカレートしていき、それこそ監督が言っている主語を「集団」に持っていく危ない兆候といわざるをえません。
監督が言っていることはこういうことなんだろうな。福田村事件の犯人たちも、国のためにやった、みたいなことを裁判で言っていたらしい。罪悪感がなくなっているんです。これも「個」を離れ「集団」(この場合は日本)が主語になった恐ろしさです。
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