フィリピン バナウエの棚田
フィリピン、ルソン島のコルディリア山脈のバナウェには、世界遺産に登録された山岳民族イフガオ族の棚田があります。登録されたのは1995年で、正式な登録名は「Rice Terraces of the Philippines Cordilleras」です。棚田として世界遺産に登録されているのは、唯一ここだけです。首都マニラからバスに揺られて10時間かかります。
車の通れる道から歩いて2時間かけて山越えし、バダッド村へ向かいました。途中、槍をもったふんどし姿のおじいさんが、「わしの写 真を撮れ」と話しかけてきます。もう彼のような格好をしている住民はいません。彼は、観光客に自分の姿を写 真に撮らせてチップをもらい、生計の足しにするモデルさんなのです。
すり鉢状の地形が棚田で埋まり、底には、バダッド村があります。1000年以上も前から棚田が作られているそうです。
ここバナウェは、年間降雨量がかなり多く、3600mm。棚田上部にはさらに高い山が控えていて、森林が水を貯え、渓流となって下に流れ出します。棚田用の灌漑水は、その渓流に石を置き堰を作り、水路によって運んできます。水路は、長いところで数kmにも及ぶそうです。そして上の田に入れられた水は、下の田へと、順に流れてゆく構造になっています。
田と田の段差は2mから5m程度です。 急な坂で、農道のようなものは見当たりません。機械どころか、水牛さえも田んぼまで辿り着くことができないので、農作業は、すべて人間の手作業に頼るしかありません。雨が降ると、ただでさえ狭い畦道は、滑って危険です。しかしそれが唯一、農作業や日常生活の通 路なのです。
ここは、棚田を見に外国人がやってくる観光地でもあります。東洋人は少なく、訪れるのは、もっぱら西洋人です。自分の家の周りにある珍しくもない田んぼを、わざわざフィリピンまで見にくる東洋人は少ないということでしょうか。
ここで観光客相手にゲストハウスを経営している40歳になるシモンの話では、彼が子どものときは、村人はまだ民族衣装で暮らしていたし、田んぼでコメを作り、自給自足の生活を送っていたそうです。外界との接触も少なく、それは、小宇宙といっていい世界でした。
しかし、世界中同じように、ここでも貨幣経済が浸透し、やがてより良い生活を夢見て、町に働きに出た若者たちは、もはやきつい労働が待っている棚田の村には、戻らなくなってしまいました。
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