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2015年4月 6日 (月)

映画 『es[エス]』に、(自称)善人の危うさを見る

日本では2002年に公開された映画 『es[エス]』(The Experiment)を、あらためてまた観ました。「社会心理学」の教科書に載っていたからです。

 

監督: オリヴァー・ヒルシュビーゲル

原作: マリオ・ジョルダーノ

出演者: モーリッツ・ブライブトロイ

      クリスチャン・ベルケル

      オリヴァー・ストコウスキ

 

 

心理学者スタンレー・ミルグラムが行った服従実験というのがあります。ナチス政権下でユダヤ人虐殺に関係したとされるアイヒマンに由来して「アイヒマン実験」ともいわれますが、普通の人たちも、ある状況の元では、権威者に命じられるままに、罪のない人に電気ショックを与え続けるという実験です。

それと並んで有名な心理学的実験は、フィリップ・ジンバルドの監獄実験というものがあります。

スタンフォード大学で模擬刑務所を作り、大学生を囚人役、看守役に分けて生活をさせるものでした。参加者たちは自分の「役」に没頭し、看守は攻撃的、威圧的になってゆき、囚人役はより服従的になっていきました。でも、囚人役が心身に異常をきたしたので、2週間の実験を取りやめ、6日間で終了したという実験です。

この映画『エス』はその実験を元にしたマリオ・ジョルダーノの小説『Black Box』を映画化したものです。

普通の人たちが「役」にはまることで、どんなふうに変わっていってしまうのか、見ていると恐ろしくなります。なぜ恐ろしいかというと、「彼らは特別ではない」からです。

ミルグラムがいうところの「状況の力」がいかに人間の行動に影響するか、俺たちはなかなかわかりません。

たとえば、ある犯罪が起こったとすれば、「あいつは残忍で非情な性格だからあんなことをやったんだ」と、つい結論してしまいます。それは「あいつは異常で俺たちとは違うのだ」と思い込むことで、どこか安心したがっているところがあるからでしょう。「俺は犯罪を犯さない」という(根拠の無い)自信を持ちたいのです。

ところが「状況の力」を過小評価し、個人の性格などに理由を求めてしまうのは、人間が共通して持っている「基本的な帰属のエラー」と呼ばれるものだそうです。

つまり状況しだいでは、どんなに「善良な人」も、最悪なことをやってしまいかねないということです。ということは、「俺もそうやってしまうんだろうか」という不安がぬぐえないことになってしまいます。

でも、「状況の力」のことを恐れているなら、逆に、そういう状況を作らない、そういう状況を拒否することで、最悪な行動を取らなくてすむかもしれません。

「自分はそんなことはしない」という自信を持っている人ほど危ないとも言えるわけですね。(自称)善人の危うさはここにあるようです。  

【ここから少しネタバレ】

映画でも一般市民としての「善人」がどんなふうに変わっていくかが描かれていました。

殺人まで行ってしまった看守役の男は、最後に我にかえり、主人公に向かってこういうのです。

「おまえのせいだ」

たぶん、そうなのかもしれません。主人公はとても挑発的です。看守がそうやってしまうような状況を作り出したのは、たしかに主人公であるのは間違いありません。

ここでの主人公は悪を暴く正義の味方でもなく、危険な実験の犠牲者でもなく、「状況」を象徴しているのではないでしょうか。

しかも彼の動機は、この実験に潜入取材をして雑誌に売り込もうという、ある意味不純なものがありました。だから騒ぎが欲しかったともいえます。つまり彼は「状況」どころか「悪い状況」そのものなのです。

看守役の男が言ったセリフは真実をついている、というか、オリジナルの実験の目的そのものと言えるのかもしれません。

 

 

 

 

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